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その人のよさを引き出す言葉を
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先日に続き三浦綾子さんの『言葉の花束』(講談社文庫)からご紹介します。
人間は、前にも述べたが小さく弱い存在なのだ。
名前を覚えられていたというだけで、生きる意欲が湧いたり、駄目な奴といわれただけで、死にたくなったりするものなのだ。
私たちは心して、人に勇気を与え、喜びを与える、つまりその人のよさを引き出す言葉を出すべきであると思う。 三浦綾子著『孤独のとなり』
長年、ホスピスに勤められていた方が、患者さんに「聖書の言葉で何が一番好きですか」と尋ねると、その答えとして最も多かったのがこの聖句だそうです。
「あなたはわが目に尊く重んぜられたもの、わたしはあなたを愛する」
(イザヤ預言書 43-4)
ホスピスに入院するほとんどの方は、自分の死期がそう遠くないことをご存じです。
おのずとこれまでの人生を振り返り、自分の存在価値とは何であるのか、という人生の根本的な問いに向き合わずにはおれません。
そのような方々にとって、自分の存在を肯定され、創造主である神様から愛されているというメッセージは、まっすぐ心に届くのかもしれません。
作家の故三浦綾子さんもそうでした。
敗戦の後、彼女はこれまで信じてきたものに裏切られた上、肺結核を患います。
「こんな自分が生きている価値などない」と捨て鉢になり、自殺を試みます。
しかし、どうにか立ち直らせたいと願う幼馴染のおかげで思い留まり、病床の中で聖書を読むようになった彼女は、次第によりよく生きる意欲をもてるようになるのです。
そして、十三年間ほとんど寝たきりの療養生活に耐え、退院後、結婚します。
その後、病弱の体にムチ打ちながら、「氷点」「塩狩峠」「道ありき」などの数々のすばらしい作品を生み出し、世の多くの人々に感動と勇気を与えてきました。
長年秘書を務められた宮嶋裕子さんに、三浦さんのことをお聞きしたことがあります。
三浦綾子さんはまわりの人をよくほめる人で、その人の欠点までも長所として見る人だったそうです。
たとえば、ご本人いわく宮嶋さんには、おしゃべり、でしゃばり、おせっかいという三大欠点があります。
ところが、三浦さんにかかれば、
「おしゃべり」は、「話題が豊富」
「でしゃばり」は、「積極的」
「おせっかい」は、「気配りができる」
ということになってしまうのだそうです。
三浦さんが、秘書だけでなく、夫やまわりの人に対しても、暖かく肯定的な目で見ることができたのは、先の聖句が彼女の心に染み込んでいたからだと、宮嶋さんは言います。
十数年も寝たきりの病人に対しても神様は、
「あなたはわが目に尊く重んぜられたもの、わたしはあなたを愛する」
と言ってくださったのだから、
自分もそのような目でまわりの人を見て、そのような心で人と接しようと考えていたのです。
人の長所をみつけて言葉にしよう。
ついでに自分の長所もみつけよう。
出典:三浦綾子『言葉の花束―愛といのちの792章』(講談社)