言葉は自分を築き上げ、救ってくれます。
大関貴景勝は、言葉の力を信じ重んじている人です。
それは大関昇進伝達式の際に口上で述べた言葉について
「小さい頃から自分を築き上げてきたものだと思っている。プロに入ってからも何度も救われた言葉だ」と語っていることからわかります。
貴景勝の「小さい頃から自分を築き上げ、プロに入ってからも救われた言葉」とは、何だったのでしょう。
貴景勝の大関昇進伝達式の口上
貴景勝は口上で
「大関の名に恥じぬよう、武士道精神を重んじ、感謝の気持ちと思いやりを忘れず相撲道に精進してまいります」
と述べています。
「小さい頃から自分を築き上げてきた」
「プロに入ってからも何度も救われた言葉」とは
「武士道精神」「感謝」「思いやり」の3つです。
この3つの言葉について少しふれておきます。
「武士道精神」について
特に、「武士道精神」にこめた思いを聞かれると
「『勝っておごらず、負けて腐らず』を常に意識し、義理人情を、受けた恩を必ず返す男らしい人間でありたい」
と答えています。
小学生3年生で相撲を始めた頃は体重30キロの細身。
「そんな体で何ができんねん」と笑われたそうです。
プロに入ってからも好不調の波がある押し相撲一本のスタイルに「幕内は無理」「三役は無理」「大関は無理」と冷ややかな目で見られました。
心がへし折られそうなとき、胸に浮かべるのが少年時代から繰り返し父から教えられた「勝っておごらず、負けて腐らず」という言葉。
それは彼には「武士道の精神」だったのです。
「感謝の気持ち」「思いやり」について
「感謝」「思いやり」も彼にとって「武士道」につながります。
これは青春の汗を流した埼玉栄高相撲部の恩師、山田道紀監督(53)が部訓とする教えであり、貴景勝の人格形成に大きな影響を与えたようです。
伝達式後の会見で、貴景勝はこの文言についてこう説明しています。
「(「感謝」「思いやり」は)埼玉栄高校の相撲部の部訓でもあります。
人間的に成長できた部分もあり、いろんな人に支えられてここまできました。自分一人ではきてないし、感謝の気持ちを忘れたら駄目だと思います。
後輩、先輩方にも思いやりの心を持てる、それも武士道にもつながっていると思うが、その言葉をいいたくて、その2つを用いました」。
言葉の力を信じて
貴景勝が「目指す大関像」を尋ねられたときの返答も面白いです。
彼はこう答えています。
「そのことを言ったらそれで終わってしまう。もう一つ上がある。上を目指して立ち向かっていきたい」
つまり、言葉で大関像を自分で語ってしまうと、自分の可能性は大関に限定され、「それで終わってしまう」と彼は言葉の力を信じているのです。
ですから、現状を打破する言葉、「もう一つ上がある」「上を目指して立ち向かっていきたい」と言う言葉で、自分を奮い立たせているのです。
彼は、小学生の頃から言葉の力を信じていたようです。
兵庫県尼崎市で、小学生時代の貴景勝(本名、佐藤貴信)を指導した関西奄美相撲連盟の山口久義会長(70)は語っています。
「普通の子の2倍、3倍は練習していた。絶対、音を上げない。怒られても反抗的な目をしない。最近、ああいう子はいない」
山口さんが将来何になりたいかと聞いた時小学4年生の佐藤少年(後の貴景勝)は、
「日本人横綱になりたい」
としっかりとした言葉で、自分の夢を堂々と語ったそうです。
山口さんは、貴景勝の大関昇進について
「まっすぐ自分の思いを貫いてくれた。努力が自信につながっている。彼は横綱になる男。大関は通過点」
と言い切っています。
貴景勝は、子どもの頃から一心不乱の猛練習を重ねる一方で、言葉の力に支えられて強くなってきたし、これからもいっそう強くなっていく人です。
ちなみに貴景勝は、兵庫県芦屋市出身で、社長の息子です。何も厳しい世界に飛び込んで、厳しい鍛錬を積まなくても、それなりにリッチな生活を送れたはずです。
しかし、彼は安逸を選ばず、プレッシャーや怪我と戦いながら、少年の頃からの夢に向かって相撲道に精進しています。
待望の日本人横綱になれるように応援していきたいです。
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出典:3月28日付「産経新聞」「神戸新聞」など