「人間がいきいきと生きて行くために、生きがいほど必要なものはない・・・
それゆえ人間から生きがいをうばうほど残酷なことはなく、人間に生きがいをあたえるほど大きな愛はない」(神谷美恵子著『生きがいについて』より)
▼神谷美恵子(1914-1979)さんは精神科医で、作家、翻訳家、通訳、大学教授などとしても活躍しました。
家柄もよく才色兼備で深い知性をもつ人でしたが、それをまったく誇るところない謙虚な人柄でした。
19歳のときに、ハンセン病療養所を訪れ、「自分の存在そのものが揺さぶれるほどのショック」を受けた彼女は、「医師になってハンセン病患者のために働こう」と決心しました。
自らの結核療養や家族からの反対に合いつつも、その意志を遂げ、報われることの少ないハンセン氏病患者さんや精神科の患者さんへの治療に生涯を捧げた方です。
流産されてご静養中だった皇后美智子様(当時)のお話し相手としても選ばれ、数年間お仕えになったこともあります。
「いったい私たちの毎日の生活を生きるかいのあるように感じさせているものは何であるろうか。ひとたび生きがいをうしなったら、どんなふうにしてまた生きがいを見いだすのだろうか」
神谷さんが関わったハンセン氏病患者さんのほとんどの方は、将来に何の希望や目標も持っていない人たちでした。
しかし、同じ状況にいながら、生きる喜びを感じている人たちもいました。
同じ条件のなかにいて、ある人は生きがいを感じえず、ある人は生きる喜びにあふれている。この違いはどこからくるのだろうか。
そういう思いが、神谷さんに7年かけて一冊の本を書かせます。
1966年の初版以来、多くの人を慰め力づけてきた名著『生きがいについて』です。
▼「生きがい」についての深い考察を、神谷さんは思慮深く謙虚に続け、言葉に表し、できあいの答えを押し付けようとはしません。
彼女は医者として患者さんの心の友となろうとしたように、自己の存在意義や「生きがい」をなくした人に寄り添い、ともに考えようとするのです。
▼最終章で、彼女は、
「生きがい」を求める心も感じる能力もなくしてしまったような人に、なお生きる意味があるのだろうか、という問いについて書いています。
それさえも、宗教的な心の世界におく人なら肯定的に次のように答えるであろうと・・・。
「人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。野に咲く花のように、ただ「無償に」存在しているひとも、大きな立場からみたら存在理由があるにちがいない。自分の眼に自分の存在の意味が感じられないひと、他人の眼にもみとめられないようなひとでも、私たちと同じ生を受けた同胞なのである。」 P.281
▼この本は、「私の生きがいは、○○です!」と、毎日が生きがいと喜びに満ちているような人には、不要かもしれません。
でも、他者の生きがいについて深く考え続けた著者と、ともにじっくり考えてみたい人には大変良い本です。
きっと「生きがい」について新たな視点をあたえられると思います。
生きがいについて考え、生きがいを見出そう。 (^.^)
神谷美恵子さんご自身の生きがいは、ハンセン氏病患者さんたちに医師として奉仕すること、そして本を書くこと・・・などでした。
「心の友としていただいたことが光栄である」と語り、65歳で亡くなっています。
【出典】神谷美恵子著『生きがいについて』
「読書とは、著者の魂との邂逅である。」(亀井勝一郎『読書論』)