松下幸之助さんは「経営の神様」と言われ、亡くなったいまでも多くの人から尊敬されている人です。
そんな松下さんでも、あるとき体の調子が悪く、精神的にも心労を覚え、なんとなく心寂しさを感じていたことがあったそうです。
感謝の心で、うつ病を克服
そこで、ある友人に相談したところ、「あなたは少し憂うつ病にかかっているのではないか」と言われました。
「その原因は簡単や。あなたは喜びを知らんのや。ありがたさを知らんのや。言いかえると感謝の念が足りないから、そのような寂しさに陥るんや」
松下さんは、友人の言葉を素直に受けとめ、反省し、それからはあらゆることに感謝できるように心を磨いていきました。
その結果、大いにやらなければという気持ちを取り戻し、まわりの人をより大切に思えるようにもなったといいます。
感謝の心で、事業に成功
松下さんは、幼い頃、父親が破産したのでお金もなく、一家10人は故郷和歌山を捨てて離散したので帰る家もない少年時代・青年時代を過ごした人です。
ろくに学校にも通えず、小学校も4年で中退したので学問もありませんでした。
また、幼い頃から病気がちで体が弱い人でした。
家族のほとんどは結核で亡くなっています。
20歳で肺尖カタルを患ったときには、ついに自分もか、と思ったそうです。
しかし、この「ないない尽くし」の状況の人物が、わずか50年の間に、たった3人で始めた零細企業を従業員10万人の世界的企業にしました。
その成功の秘密は、松下氏の考え方にあります。
「松下さんは、なぜ成功できたのですか?」という問いに彼は、「運が良かったから」としばしば答えました。
松下さんにとって、貧しく、学問がなく、体が弱いことは、決して運が悪いということにはならなかったのです。
幼い頃から貧乏をして辛い思いを経験させてもらったからこそ、人を物心両面から豊かにすることを目指して、おかげさまで成功できた。
自分には学問がなく何も知らないからこそ、人の話をよく聴いて、みんなの知恵を集めて、おかげさまで成功できた。
自分は体が弱かったからこそ、人に助けてもらいおかげさまで成功できた。
貧乏も、学歴のなさも、病弱だったことも、自分にふりかかってくるものすべてを「自分は運が強い」、「これらはすべてプラスになる」とポジティブに解釈してきたのです。
感謝の心をもつ人を採用
ちなみに松下幸之助さんは、入社試験で「あなたは運がいいほうですか、よくないほうですか」と尋ねることがあったそうです。
そして、「はい、運がいいほうです」と答える人を採用したとのこと。
自分は運がいいと考えている人は、物事や状況のマイナス面ばかりでなく、むしろプラス面を見て考えることができます。
物事や状況を前向き・肯定的に考え、積極的にどんどん良い仕事をしていきます。
成功は自分の実力というより、運がいいから。
何よりも、まわりの人のおかげだという感謝の気持ちも忘れません。
そんな人なら誰でもいっしょに働きたくなりますよね。
初めて会った人にも感謝する
また、松下幸之助さんにはこんな話もあります。
大阪に向かう新幹線に乗っていた夫婦が、すぐ近くの席に松下幸之助さんが座っていることに気がつきました。
旦那さんは松下さんの大ファンで、どうしても挨拶がしたいと思いました。
しかし、理由もなく話しかけても、相手にしてくれるかどうかわかりません。
「それなら、みかんを買って、松下さんに差し上げてみたら」と奥さんが提案しました。
旦那さんがそのとおりにしてみると、松下さんは、「これはありがとうございます」と嬉しそうに言って、その場で皮をむいて食べてくれました。
旦那さんは、それだけでもう感激です。日頃、尊敬した松下幸之助さんと間近で話すこともでき、大満足で自分の席に戻りました。
そして、もうすぐ京都に着くという時です。
松下さんが夫婦の座席までやってきて、「先ほどはありがとうございました。とてもおいしかったです」と頭を下げたのです。
世界の松下幸之助がわざわざ挨拶をしに来てくれたと、夫婦は感動します。
しかも、続きがあります。
京都駅で降りた松下さんは、その夫婦の座席が見える窓の所まで来て、深々と頭を下げ、夫婦の姿が見えなくなるまで見送ってくれたのです。
旦那さんはもう感激し、家に帰るとすぐに電気屋さんに家に来るように電話しました。
そして、自宅の電化製品すべてをナショナル(現パナソニック)製品に替えたそうです。
この話は、最後にインパクトがあるので、人伝に伝わっていって有名になったと思うのですが、松下さんが常日頃から誰にでも感謝を示していたのはよく知られていることです。
感謝する心があってこそ
「すべてに感謝する心があってこそ、思いやりの心も生まれ、人の立場を尊重する行動もできる。ともに栄え、ともに幸せに生きようという道にも通じるのです。」
『松下幸之助 成功の金言365』(PHP研究所)
わずかなことであっても、誰に対しても、感謝を示す。
徳のある人は、どれほど偉くなっても、感謝の気持ちを忘れません。
まわりの人や物に感謝して言葉や行いに表すと、自分の心が浄化されます。
澄んだ穏やかな心で人のことを考えることができるようになり、思いやりが生まれます。そして、互いに幸せになっていく道が拓かれるのです。