いい話

童話「昔話のふしぎな学校」3

「昔話のふしぎな学校」という童話を書きました。

ももたろう、うらしまたろう、いっすんぼうし、かぐやひめ、おとひめなど、おとぎ話の主要人物がたくさん登場する童話です。

物語は、本を読むのが苦手な小学二年生のまことが、宿題のために、夕方一人で図書室に行ったところからはじまります。

そこで出会った白ひげのおじいさん先生から、まことは一冊のをすすめられました。

その本を読んでいるうちに、不思議な世界に入っていくのです。

童話「昔話のふしぎな学校」1から2を未読の場合、先にこちらからどうぞ。

童話「昔話のふしぎな学校」1「昔話のふしぎな学校」という童話を書きました。 ももたろう、うらしまたろう、いっすんぼうし、かぐやひめ、おとひめなど、おとぎ話の主要人...
童話「昔話のふしぎな学校」2「昔話のふしぎな学校」という童話を書きました。 ももたろう、うらしまたろう、いっすんぼうし、かぐやひめ、おとひめなど、おとぎ話の主要人...

 

かぐやひめのかくご

そのとき、かぐやひめが、ばけものおにの前にすすみ出ました。
「もう、やめてください。わたしのかぞくやともだちをいじめないでください。」

ばけものおには、ニタリとわらいました。
「ヒヒヒ。かぐやひめ、では、おれさまといっしょに行くかあ。」
「しかたがありません。」

おじいさんとおばあさんは、かぐやひめにすがってとめました。
「わしらはどうなってもええ。おまえが行きたくないところには行かんでくれ。」
「行くって、どこに行くのですかな。」

花さか先生が、かぐやひめにたずねました。
「わたしは月からやってきました。行くというのは、月に帰るということです。」
「えっー!」

みんなは、びっくりしました。
「わたしは、赤ちゃんのころからこのちきゅうでそだち、この日本がすきになったのです。いつまでも帰らないわたしをつれもどすために、何人ものつかいがやって来ました。おそらく、このおにもそうです。」

おじいさんが、うなずきながら言いました。
「それで、わしらは、京のみやこから遠くにある学校にてん校させたのですじゃ。」

「ふん。めんどうなことをしおって。さあ、かぐやひめ、行くぞ!」

ばけものおにが、かぐやひめの手をつかもうとしたその時です。空にうかぶ雲にのって、かがやくような白いきものをきた女の人たちが、あらわれました。まん中に年とった女の人、左右に一人ずつわかい女の人がいます。

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花がさく

年とった女の人が空からさけびました。

「おまちください!ひめさま。そやつは、月からのつかいではありませんぞ。」
「なんだと!おまえたちは何ものだあ!」
ばけものおには、目をむいてどなりました。

「わたしたちこそ、月からのまことのつかい。おまえは、まっかなにせものだ。ひめさまをさらって、ひめさまとけっこんしたがっているきぞくから、宝やお金をたんまりせしめようとするこんたんであろう。」

「ギャハハハ、ばれてしまったか。しかし、ひめは力づくつれて行くぞお。」
月のつかいは、ぽかんと空を見上げているももたろうに言いました。

「ももたろう、何をしているのです。あなたは、日本一のきびだんごをもらっているのではありませんか。」

「あっ、そうだった。ぼくのおばあさんが作ってくれたきびだんごだ。」
ももたろうは、こしにつけたきびだんごを、みんなに分けあたえ、じぶんも食べました。

まことも食べてみると、おいしくて、おいしくて、みるみる力とゆう気がわいてきました。

ももたろうは、元気いっぱいになったみんなにむかって声をはり上げました。
「大きなてきにかつには、あい手の弱いところをねらうんだ。」
そのいみをすばやくさとったいっすんぼうしは、きじのせにまたがりました。

「とべ!おにの上を回れ。」
 きじは、いっすんぼうしをのせて、おにの頭の上をグルグルとび回りました。

そのうごきを見ていたおには、だんだん目が回ってきて、ふらふらになり口をぼかんとあけました。

「いまだ!」
 いっすんぼうしは、きじのせなかから、おにの口の中にとびうつりました。
「イテッ、イテテテテテテテ。」
 おには、うめきながらたおれました。いっすんぼうしが、おにののどちんこを、はりの刀でついているのです。

おには、地めんにたおれたまま、手でいっすんぼうしをつまみ出そうとします。
 しかし、きんたろうがおにの右うでをくまをもたおす力で地めんにおさえつけました。

「みんなも、おにをおさえてくれ。」
 ももたろうが言うと、みんなはおにとびかかりました。左うでを、まこととさるといぬ。右足を、うらしまたろうとおとひめと花さか先生。左足を、かぐやひめとおじいさん、おばあさんとした切りすずめのおばあさん。みんながひっしにしがみついて、うごけないようにしました。

「わるいおにめ!かぐごしろ!」
 ももたろうが、空高くとび上がりました。刀がきらめいています。下りてきたのは、ノーガードになったおにののど。その一点を刀で一つき。のどを中と外から刀でつかれ、ばけものおには、子どものようになき声をあげました。
「うわーん。イタイ、イタイよ。もう、こうさんだあ。」
走ってにげて行きました。

「やった!やった!かったぞ!」
みんな、大よろこびです。かぐやひめとおじいさん、おばあさんは、だきあってないています。

そのようすを月のつかいたちは、雲の上からじっと見ていました。
「ひめさまは、この星でしあわせにくらしているごようす、よくわかりました。わたしどもは、ひめさまが帰りたくなるまで、もうしばらくまちましょう。」
そう言いのこして、月のつかいたちは、空高くまい上がり見えなくなりました。

みんはは、ほっとして空を見上げていましたが、した切りすずめのおばあさんは、くやしそうです。
「あのおにめ、宝ものをおいていかんかったのお。」
「うちでのこづちもね。」

いっすんぼうしも少しざんねんそうですが、花さか先生はわらっています。
「かぐやひめも、かぞくもぶじで、京のみやこにへいわがもどっってきたんじゃ。これが何よりの宝ではないかのお。」

まこともみんなも、うなずき合いました。 
 花さか先生がふくろに入れていたこなをちかくの木にパッとまきました。すると、つぼみは光がともるように、つぎつぎと花ひらきはじめました。

「まあ、なんてきれいなさくらの花。」
 かぐやひめは、花さか先生からもらって、ほかの木にも、つぎつぎとこなをまきました。おとひめも、うれしそうに手つだいました。

しばらくすると、みんなは、まんかいのさくらの花のかおりにつつまれていました。
「ハハハ。めでたい、めでたい。さあ、みなさん、さくらの花を見ながら、ひとつ、おどりましょうかな。」
花さか先生がうたい、おどると、みんなもいっしょにおどりはじめました。

はあー、花がさく、花がさく
京のみやこに 花がさく
はれ、よいよい
ほな、よいよい

きえた本のなぞ

つぎの日、まことのクラスでは、一時間目の国語に、図書室からかりてきた本のはっぴょう会をしました。一人ひとりがじゅんに、本を見せて、だいめいを言うのです。

ところが、まことは、こまってしまいました。昨日かりて、家でランドセルに入れておいたはずの『むかし話のふしぎな学校』が、学校に来るとなくなっていたのです。
(おかしいな。家にわすれてきたのかな。どこかにおとしたのかな。)

もしかしたら、だれかがひろって返してくれたかもしれないと思い、中休みに、図書室にさがしに行きました。でも、『むかし話のふしぎな学校』は、どこにもありません。

図書室の先生に聞いても、そんな名前の本はこの図書室にないし、白いひげの先生もこの学校にはいないと言われました。
まことは、しんじられないような気もちになりました。

学校が終わると、家にとんで帰って、家中をさがしました。お母さんにも聞きました。でも、本は見つかりません。

まことは、まったくわけがわからなくなりました。
たしかに、昨日、あの白いひげの先生から、『むかし話のふしぎな学校』をかりて読んだのです。

読みながら、京のみやこまで遠足に行ったし、ばけものたいじもしたのです。どれほどワクワクして、ドキドキしたことでしょう。

お母さんから、「まこと、もう早くねなさい。」と言われて本をとじるのが、さんねんでたまらなかったくらいです。
(ぼく、どうかしちゃったんだろうか。)

そこで、つぎの日、まことは、きょうこ先生にこのふしぎなできごとをうちあけてみることにしました。しゅくだいをちゃんとやったことも、しってほしかったのです。

きょうこ先生は、まことの話を、うん、うんと、うなずきながら聞いてくれました。
「それにね、先生。あの白いひげのおじいさん、いま思えば、花さか先生だったような気もするんです。」

きょうこ先生は、少しおどろいたようでしたが、しばらくまことを見つめた後、おだやかな声で言いました。

「まことくん、しんぱいしないで。まことくんは、へんになったんじゃないのよ。うらやましいわね。先生も子どものころ、そういうことがよくあったのよ。」
「えっー、先生も、花さか先生に会ったことがあるんですか。」
「ふふ。先生のばあいは、シンデレラとか人魚とかね。ものがたりの主人公たちに会えたし、ものがたりの中にあそびに行けたの。」
「ふーん。先生もかあ。でもね、あの本はどこにきえちゃたんだろう。」
「ううん、その本はきえたんじゃなくて、あるのよ。まことくんの本だなに。」
「えっ、ぼく、家の中もずいぶんさがしたんですよ。でも、どこにもなかった。」
「あっ、そうじゃなくて。その本には、まだ形がないのよ。だから、まことくんの中にある本だな、そこにちゃあんとあるのよ。」
きょうこ先生は、いつも教室で見せるやさしいえ顔をまことだけに向けました。
「先生も、いつかその本を読めるといいな。」
 
それから何か月か、たちました。
ふしぎなことはふしぎなままですが、まことにとって、たしかなことが二つありました。 

一つは、あの日から、図書室にたびたび行くようになったこと。もう一つは、サッカーやゲームほどではないかもしれないけれど、本が大すきになったことです。