▼「子どもの夜泣きが止まらない。絵本を読んであげたい」
でも、絵本がない。
そんな悩みをお持ちのお母さんが震災の被災地に多いそうです。
そのご要望に応えて、子どもたちに絵本を届けようと、各地の様々な団体や個人が取り組んでいらっしゃいます。
生きるために衣食住のすべては必要ですが、これからは心のケアも大切。
絵本は子どもだけでなく、大人も慰め、勇気づけ、心の糧になります。
そして、親子が愛情をもって接する時を生みだし、絆を深めるのです。
▼歌人の俵万智さんの『かーかん、はあい 子どもと本と私』という本を読んで、さらにその思いを深めました。
この本の中で、俵さんは『かみさまからのおくりもの』という絵本をご紹介されています。
この絵本は、赤ちゃんが生まれると、神様が天使に託して、ひとりひとりに贈り物をくださるという実にシンプルなお話です。
▼この絵本を読んであげた後、俵さんは当時4歳前の息子「たくみん」に
「たくみんは、かみさまから何をもらったのかな?」
と聞いてみます。
すると、「げんきでしょ、かっこいいでしょ、・・・」との意外な自信。
その言葉を本の一番うしろの白いページに書いてあげると、「やさしいでしょ、よくねるでしょ、ごほんがすきでしょ・・・」とさらに夢中で付け加えてきます。
「いっぱいあるねえ。じゃあ、おかあさんはなにをもらったと思う?」
と何気なく俵さんは尋ねてみます。
▼その後の文章、特に最後から二つ目に私は感動しました。
そのまま引用します。
「やさしい」とか「りょうりがじょうず」とか密かに期待していたのだが、息子は自分のときとは違って、なかなか口を開かない。
「おかあさん、じつは『たんかがじょうず』をもらったんだよ」と冗談めかして言うと、「それは、しってる」と軽く受け流されてしまった。
そしてしばらくして、息子はこう言った。
「わかった!おかあさんがもらったのは『たくみんが、うまれる』じゃない?」
この答えを、私は一生忘れないだろう。
もしかしたら、これこそが、この絵本が伝えたかったことだったのかもしれない、と思った。
▼親は「子ども」という最高の贈り物をもらいます。
子どもも「親」という最高の贈り物をもらっています。
普段はそう思わない。
けれども、実感するときがあるのです。
絵本を読み聞かせる時、絵本を通しておしゃべりをする時、その実感が、子どもや親の心に生まれてくることがあるのですね。
「一生忘れない」と、親は思うこともあるでしょう。
子どもも、たぶん「一生忘れない」。
絵本の内容は忘れてしまっても、読んでもらった温かな愛情は、ずっとずうっと心に残るのだと思います。
▼被災地に絵本を贈るプロジェクトは、あちこちでおこなわれています。
ご尽力されている方々、仕分けなどで大変かと思います。
でも、届いた真心のこもった本は、きっと親子を元気づけます。
また子どもの心を育てます。
▼戦後、原爆で被災した長崎に、永井隆博士が自宅の一部を図書室として、子どもたちのために開放しました。
と言っても、家とともに本は、すべて焼けてしまっていたので、全国の善意ある方々から贈っていただいたのです。
たくさんの方が本を贈ってくださってできた図書室のおかげで、長崎の子どもたちは本を読むことができました。
きっと一冊一冊を大切に、感謝しつつ読んだと思います。
それから長い年月がたち、その一人が児童図書の編集者となり、私といっしょに子どものための本を作ってくださいました。
人の真心と善意は、ずっとずうっとつながっていくのです。
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【出典】俵万智著『かーかん、はあい 子どもと本と私』ひぐちみちこ著『かみさまからのおくりもの』