一人ひとりに天の使命があり、その天命を楽しんで生きることが、処世上の第一要件である。
渋沢栄一(1840~1931年)
渋沢栄一は、「日本資本主義の父」と呼ばれ、官僚、実業家、慈善家として、日本の近代化に多大な貢献をした偉人です。(写真は、埼玉県深谷市にある渋沢栄一記念館)
2024 年から新1万円紙幣の肖像となりますし、2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』(せいてんをつけ)の主人公でもあります。
では、渋沢栄一の生涯といくつかの名言と現代語訳の本をご紹介します。
渋沢栄一の生涯
渋沢栄一は、1840年、現在の埼玉県深谷市血洗島の農家に生まれました。
家業の畑作、藍玉の製造・販売、養蚕を手伝う一方、幼い頃から父に学問の手解きを受け、従兄弟から本格的に「論語」などを学びます。
渋沢は2度、江戸への留学をしました。そこで多くの志士や剣客と交友を深めます。江戸から帰った栄一は、夜になると若者たちと倒幕の計画に明け暮れることになります。
しかし、この無茶な計画は、従兄に止められてしまいました。
倒幕計画によって、幕府に追われた渋沢たちは京都に逃れました。
しかし、思わぬ出会いによって渋沢の運命は開けていきます。
一橋家の重臣平岡円四郎が渋沢の才能を見込んで、一橋家に仕えることをすすめることをすすめたのです。
こうして、渋沢は、江戸時代、徳川家の最後の将軍、慶喜に仕えることになります。
そのとき、渋沢は、慶喜のかわりに、フランスの万国博覧会に出席するチャンスをもらいました。
ヨーロッパの国々をまわって、社会の仕組みをじっさいにこの目で見て、学んだのです。
そして、明治時代になったとき、そのときの経験を生かして、新政府の一員として改革にとりくみました。
その後、渋沢は政治家と対立して政府をやめ、実業家となりました。
第一国立銀行(今のみずほ銀行)をはじめ、東京ガス、東京海上火災保険、田園都市(現東京急行電鉄)、京阪電気鉄道、東京証券取引所、キリンビール、サッポロビールなど、さまざまな企業をつくっていきました。その数は500以上だそうです。
ただ、渋沢は、お金もうけのために、仕事をしていたわけではありません。
大金持ちになるよりも、社会万民の利益をはかるために生きる方が有意義である。
自分の利益を求めるのではなく、みんなの利益を考える――これが、渋沢がとても大事にしていた考え方です。
だから、仕事がなくて困っている人や親をなくした子どもたちのための施設や、病院、日本赤十字社などをつくる手伝いもしたし、ほかの実業家のように財閥をつくって家族で会社を経営してもうけようとはしなかったのですね。
できるだけ多くの人に、できるだけ多くの幸福を与えるように行動するのが、我々の義務である。
このような考えから、東京養育院等の社会福祉事業、東京慈恵会、済生会等の病院医療、東京商科大学等の実業教育、東京女学館、日本女子大等の女子教育、二松學舍や早稲田大学等の私立学校等の設立、運営、支援等、600を超える社会的事業にも尽力しました。
渋沢がこのように様々な事業で成功できた理由は次の名言からも知ることができます。
ただそれを知っただけでは上手くいかない。
好きになればその道に向かって進む。
もしそれを心から楽しむことが出来れば、いかなる困難にもくじけることなく進むことができるのだ。
為すことを好きになり、楽しむことが、困難に負けずに事を成し遂げる秘訣なのですね。
他にも素晴らしい言葉を残しています。
渋沢栄一の名言
もうこれで満足だという時は、すなわち衰える時である。
人は全て自主独立すべきものである。
自立の精神は人への思いやりと共に人生の根本を成すものである。
一個人がいかに富んでいても、社会全体が貧乏であったら、その人の幸福は保証されない。その事業が個人を利するだけでなく、多数社会を利してゆくのでなければ、決して正しい商売とはいえない。
真の富とは道徳に基づくものでなければ決して永くは続かない。
我も富み、人も富み、しかして国家の進歩発達をたすくる富にして、はじめて真正の富と言い得る。
人を選ぶとき、家族を大切にしている人は間違いない。
仁者に敵なし。
私は人を使うときには、知恵の多い人より人情に厚い人を選んで採用している。
金儲けを品の悪いことのように考えるのは、根本的に間違っている。
しかし儲けることに熱中しすぎると、品が悪くなるのもたしかである。
金儲けにも品位を忘れぬようにしたい。
交際の奥の手は至誠である。
理にかない調和がとれていればひとりでにうまくいく。
死ぬときに残す教訓が大事なのではなく、生きている時の行動が大事なのだ。
他にも、渋沢英一の「夢七訓」は有名です。
渋沢栄一と読書
渋沢栄一は、少年・青年時代から、大変な読書好きでした。
12歳の正月に、親戚にあいさつ回りするときも歩きながら本を読んでいたくらいです。
しかし、うっかり溝に落ちて、晴れ着を汚してしまい、お母さんにものすごく叱られたそうです。(笑)
後に、読書について次のように語っています。
普通にしていては読書の時間など見出せるわけがない。
私も、読んでみたいと思っている本が常に机の上に山積みになっている。
だから、わずかな暇さえあれば私は机に向かって本を読むよう心がけている。
寝る時にも読み、車に乗っている時にも読むようにしている。
読書は、寸暇を惜しんでする勉強であり、自己研鑽でした。
特に、繰り返し読んだ本は『論語』です。
それが、次に紹介する名著につながったのですね。
渋沢栄一の名著『論語と算盤』
著名な本として名著『論語と算盤 (そろばん)』があります。現代ビジネスマンのロングセラーとなっています。
渋沢は、「論語」に「算盤(そろばん)」という不釣り合いなものを掛け合わせ、「『算盤』は『論語』によってできている」と述べました。逆もまた然り。実業と道徳のバランスがとれてこそ、国は栄え富を築くことができると説いたのです。
現代語訳
『現代語訳 論語と算盤 』(ちくま新書) 渋沢 栄一 (著), 守屋 淳 (翻訳)
原文版
原文版は、より格調が高く感じられるでしょう。
例えば、
富をなす根源は何かといえば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。
児童書
子どもにもぜひ読ませたい本です。この本がおすすめ。(訳者は現代語訳と同じ、守山淳氏)