小説など

『ちいろば先生物語』(三浦綾子)水野源三さんの愛と感謝の詩

三浦綾子さんの『ちいろば先生物語』という本を読んでいたら、「まばたきの詩人」と言われる水野源三さんのことが出てきました。

『ちいろば先生物語』は、榎本保郎牧師の信仰と熱意あふれる生涯を著したものです。この方の人生もすごいのですが、ここでは、水野源三さんについてご紹介します。

水野さんは9才の時に赤痢にかかり、脳膜炎を併発してその後遺症のために手足の自由を奪われ、ついには話すこともできなくなりました。

当初「死にたい、死にたい」と言っていた少年は、ついに言葉の自由さえもきかなくなったのです。

しかし、あるとき牧師さんが置いていった聖書を読むことで、次第に周りの人がびっくりするほどに明るくなったそうです。

やがて水野さんは多くの詩や短歌などを作り始めました。

お母さんが五十音表をしめし、源三さんがまばたきで合図して音を一つ一つ拾い、書き表していくのです。三つほどご紹介します。 

まばたきで綴った詩

   ありがとう

 物が言えない私は

 ありがとうのかわりにほほえむ

 朝から何回もほほえむ

 苦しいときも 悲しいときも

 心から ほほえむ

 

   ひまわり

 庭から切ってきた 

 大きな大きな ひまわりの花が

 小さな小さなことに こだわる 

 我が心に 話しかける

 かみさまの大きな大きな愛を

 

   心はふしぎな所

 心はふしぎな所

 信じるべきを うたがい

 愛するべきを 憎み

 のぞむべきを 落胆し

 喜ぶべきを 悲しみ

 心はふしぎな所

 いったん主の御手にふれるならば

 見たり きいたり

 ふれたり しなくても

 信じ 愛し のぞみ

 喜ぶことができる

 

 水野さんの詩には、悲しみや苦しみをうけとめながらも、日々を前向きに生きる人の姿が見えてきます。

 水野さんは、目に見えなくても愛を知り、実際にふれることがなくても大きな愛に包まれていることを感じるようになったのです。

 そして、日々、愛を感じることで、彼の心から、憎しみも恨みも消え去さり、

 信頼や希望や感謝の心が生まれてくるようになったのです。

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愛によって内なるものが変わっていく

 人は愛を感じ、愛を知ることで変わります。

 自分の外的なものは何も変わらなくても、内なるものが変わっていくのです。

 その人の内的なものが、その人の外的なものを凌駕していきます。

 心は本当に不思議なところです。

 その人の心に満たされた愛は、喜びをともなって、外に向かってあふれ出ます。

 まるで人の渇きを潤す泉のように。

 水野さんがまばたきで綴った詩もその愛のあふれでだと私は感じています。

 心からあふれでたその詩に、今日も、だれかが、愛の渇きを癒されるかもしれません。                

水野源三(みずのげんぞう)略歴

1937年1月、長野県に生まれる。

1946年8月、坂城町に発生した集団赤痢が原因で脳性麻痺になり首から下と言葉の自由を奪われる。

1950年、キリスト教の洗礼を受ける。

1955年、五十音表を使って瞬きによる作詞を始める。

1962年、読売新聞のコンクールに入選。

1975年、詩集『わが恵み汝に足れり』発行。

1978年、詩集『主にまかせよ汝が身を』発行。

1981年、NHK教育テレビ「いのちのうた/水野源三の世界」放映。

同年、詩集『今あるは神の恵み』発行。1984年2月帰天。

【出典】三浦綾子著『ちいろば先生物語』

『水野源三精選詩集 わが恵み汝に足れり』