山元加津子さんという養護学校の先生のお話CDを聴きました。
そのプロフィールには、
「愛称「かっこちゃん」。主婦、母親、作家の四役を日々笑顔でこなしている女性。「好き、すき、大好き」を基本においた出会いを大切にして、「生きているとうれしいことがいっぱい」の毎日を追及している。
子どもだけでなく、心をとじていた大人たちの心を開き、奇跡のような出来事に驚きの声があがっている」
とありました。
お話を聴いて、私も驚き、感動しました。
今日はそのなかで「ヤクザさん」のお話をご紹介します。
暴れるヤクザさんとの出会い
山元さんが、ご自身の講演会で東京に行ったとき、初めて乗る山の手線の中でのことでした。
扉が開いて、電車に乗ると、車内に異様に緊張した空気が漂っていました。
電車の真ん中で、五十歳くらいの大きな黒い服の男性が、大きな声で怒鳴りながら、高校生の胸元をつかんで殴っていたのです。
ふつうなら、こんなとき、まわりの人はどうするでしょうか。
ヘタに関わり合いにならないように見てみぬふりをする。
自分は怪我をしないようにやや遠ざかる。
そういうものではないでしょうか。
実際、その場に居合わせた人の態度とはそうでした。
または、急いで車掌さんか警察に知らせる。
あるいは、腕力に自信があれば、相手がヤクザでも、自分で止めに入れる人がいるかもしれません。
その時、腕力にまったく自信のない山元さんがどういう行動をとったか、と言いますと、これが驚きなのです。
「大丈夫だから、恐くないから」
今から考えると、どうしてそんなふうにしたのか、ご本人にもよくわからないのだそうですが、山元さんは、その大きな男の人の心がとても辛そうで、さびしそうに思えて、その人を抱きしめながら、
「大丈夫だから、怖くないから、大丈夫だから」
と言っていたのです。
なんていうことでしょう。
頭がゆがむ思いです。
相手は初対面の、しかも誰もが怖れる男(ヤクザ)です。
暴力をふるっているのはこのヤクザ、怖いのはまわりの人でしょう、と言いたくなる場面です。
それを「大丈夫だから、怖くないから、大丈夫だから」とそのヤクザを抱きしめて、慰めてあげているのです。
このヤクザも他の乗客も、一瞬、信じられなかったでしょう。
しかし、現実に山元さんは本能的にそう行動していたのです。
「ね、怖くないです。大丈夫」
そう繰り返して、顔をのぞきこんだそのとき、最初は鋭くにらみつけていたそのヤクザさんの目からぽろぽろ涙がこぼれてきました。
(ああ、やはり、この人にはとても辛いことがあるのだな)
山元さんはそう思ったそうです。
ヤクザさんと障害をもつ子との共通点?
それにしても、なぜ山元さんはそんなことができたのでしょうか。
たぶん山元さんが日々接している障害をもつ子どもたちの辛さと、その男の人が辛さがどこか深いところでつながっていることを山元さんの心が感知したからではないかと私は思います。
養護学校でいっしょに生活して女の子が、何かの理由で、とても辛くて仕方なくなるときに、突然暴れることがあったそうです。
その子の身体を抱きしめていると、体中の怒りや辛さが少しずつ薄らいでくるような経験が毎日あったからかもしれないと山元さん自身おっしゃっています。
その後、ふたりはその場で「お友達」になり、別れては文通をするようになります。
変わっていくヤクザさん
そして、このヤクザさんは次第に変わっていくのです。
「人は変われるものですね。こんな僕がかっこさんと会って、虫にも気持ちがあると知りました。こんな僕が本を読んでいる。そして人の気持ちを思いやろうとしている」
そう手紙に書いてきたこともあります。
もしからしたら今頃は、別の世界で働いているかもしれません。
やさしさは、人の心を開くものだなと思います。
そして、やさしさは人の心を変えていくのだなと思います。
人の辛いことや悲しいことに共感しないで、その人を変えようと思っても、おそらくダメでしょう。
でも、やさしく包みこんであげることができれば、その人は自分で変わっていくのです。
山元加津子さんの「ヤクザさん」の話を聴きながらそう思いました。
でも、皆様は電車で人に抱きつくなんてことはしないでくださいね。
かのヤクザさんも、後で、
「もうそんなことしちゃダメだよ。僕はたまたまやさしい極道だけど、そうじゃない人も多いのだから」
と、今さっき人を殴っていたのを忘れたみたいに言っていたそうです。(笑)
人にやさしさをもって接しよう。
やさしさは人の心を変えていきます。(^.^)
【出典】山元加津子著『好き好き大好きの魔法』
今日の話は、この本の「ヤクザさんのお人柄」という話にもっと詳しく出ています。