「子どもは、言葉を食べます。血肉とします。」松居直(児童文学者)
松居直さんは、福音館書店で子どもの絵本をたくさん創ってこられた方です。
教師だったときに、長崎で講演をお聴きしたことがあります。
実に心に残るお話でした。
私が絵本を読むようなったり、作るようになったのは、松居さんの影響もあります。
その時の講演の内容をご紹介します。
松居直さんの講演メモを発見
▼昔のファイルをパラパラとながめていたら、児童文学者の松居直さん(福音館書店の編集長・社長を経て相談役)が長崎で講演されたときに取ったメモが出てきました。
平成15年4月26日(土)「ながさきおはなしフェスティバル」のなかでの講演「絵本を読む」です。
すごく面白くて心に残るお話でした。
絵本にご興味のない方にも、きっと何かお役に立つと思いますので、一部をご紹介します。
(前向きな人は、どんなことからも学べるので・・・)
( )内は私のコメントです。
講演「絵本を読む」
出版の仕事は、本を出せば終わりではありません。
読者の皆様が本を読んでくださっても終わりではありません。
読者の皆様が喜んでくださって終わります。
出版の仕事は読者の喜びによって完結するのです。
(私もそう思います!)
福音館書店の編集の第1の方針は、絵本は子どもに読ませるものではない、ということです。
実は、絵本は大人が子どもに読んで聞かせるものなのです。
そう考えてこれまで50年絵本を創ってきました。
(これにはびっくり!)
読み聞かせをしているとき、親子はともにいる。同じ喜びを共有する、分かち合います。
なぜ、私が子どもの本の編集に携わるようになったか。
それは私が幼児の頃、母親との楽しい思い出があるからです。
私は6人兄弟の5番目、母は朝から晩まで忙しく働いています。
そんな母が夜寝る前に、ふとんの中で絵本を読んでくれました。
それは、私にとって、母と共にいることのできる、母の愛情を感じることのできる、一番楽しい時間だったのです。
でも、先に寝るのはいつも母でした。(笑)
(この貴重な楽しい子どもの頃の経験が、松居さんの出版のお仕事の原点であり、原動力なのですね)
子どもに本を読んであげる原則
・子どもが読んでほしい本を読む。
・子どもが飽きるまで繰り返し読む。毎日毎日、半年続けてもいい。
歌人の俵万智さんは、3歳のとき、1年間同じ絵本を読んでもらい一言一句、間違えないで覚えたそうです。
(この絵本は、『三びきのやぎのがらがらどん』。俵万智著『かーかん、はあい 子どもと本と私』に出ています。)
人間にとって大切なものは目に見えない。
心も、時間も、大切なもの・・・。
言葉も、目に見えない大切なものです。
目に見えないものをどれだけ感じることができるか、それが大切です。
(ここでいう「言葉」は、読み聞かせのときの音声のことでしょう。)
子どもは、言葉を食べます。
血肉とします。
そして、身についたものが自然と口から出るようになります。
そうして、言葉による喜びの体験を得ることができます。
それは、子どもの生きる力となり、この喜びを与えてくれた人を一生忘れないでしょう。
(一生忘れないなら、私たち大人もそうでしょうね)
言葉で幸せになる
▼私たちもご飯を食べるように、言葉を食べます。
そして、自分を成長させていきます。
自分に血肉となっている言葉で、自分の思いや考えを伝え、人とコミュニケーションを図るようになります。
人を慰めたり、励ましたりするのも、言葉。
人を傷つけ、貶めるのも、言葉。
言葉一つで、人は美しくもなり、醜くもなります。
言葉一つで、人は元気にもなります、落ち込みもします。
▼自分の言葉で一番影響を受けるのは、自分です。
その次に影響を受けるのは、身近な人でしょう。
『読むだけで「人生がうまくいく」48の物語』の「きっと花ひらく」でもご紹介したのですが、ある親子は言葉の力でもう一度生きる決意をしたそうです。
その母親は、坂村真民さんの詩「念ずれば花ひらく」が好きでよく子どもに読んで聞かせていました。
ところが、ある日、生活が苦しく将来への希望をなくし、子どもをつれて死のうとしました。
まさにその時、子どもが覚えていたのでしょう、
「念ずれば花ひらく」という詩の一節を独り言のようにつぶやいたのだそうです。
母親は、ハッとして死ぬことを思いとどまったというのです。
私たちも、いい言葉を食べて、いい言葉を使うようにしたいですね。
人も自分も幸せになれる、いい言葉を使おう。 (^.^)
【出典】平成15年4月26日(土)「ながさきおはなしフェスティバル」の松居直さんのご講演「絵本を読む」より(中井のメモ)
松居直さんのおすすめの絵本はこちらです。
『松居直のすすめる50の絵本―大人のための絵本入門』