以前、学習塾で個別に小学4年生の子に国語を教えていました。
軽度の発達障害をもった子でした。
小3まで通っていた学童保育では、「人間じゃない」と罵倒されたこともあると、お母さんが言われていました。
この子の自己肯定感を育てるために「宝物ファイル」を作ってもらい、賞状や思い出の写真の他に、1枚の紙を入れて、毎週お母さんから「〇〇くんの良いところ」を一言書いてもらっていました。
私も毎週、A4一枚に紙に、少し長い文章を書いて入れてあげていました。
数年後にでも、気が向いたときに読んでくれればいいなと思ってのことです。
これからご紹介するものは、その手紙です。
振り返ってみると、〇〇くんに限らず、他の子にも言えるようなことばかり書いていました。
そこで、ご家庭や他の教育機関で、子どもを指導するときにご参考になればと思い、ご紹介していきます。
20枚ありますので、5つずつに分けます。
君の良いところ 6 ~友達が多いこと~
〇〇くんの良いところは、友達が多いことだとお母さんが言っておられました。
友達が多いのはとても良いことです。
友達が一人であっても、友達がいることは良いことです。
ふつう、友達ができるためには、友達のためになにかしてあげなればなりません。
いっしょに遊んだり、いっしょに勉強したり、いっしょにふざけたり・・・。
いっしょにいるうちにだんだん友達になってきます。
でも、ふつう、いっしょにいて嫌な子も出てくるのです。
その子は、まわりの人にいじわるをしたり、悪口をいったり、自分勝手なことをしたりします。
つまり、友達の嫌がることをするわけです。
〇〇くんに友達がいるのは、〇〇くんが友達に対してそういう友達の嫌がることをしていないからでしょう。
むしろ、逆に、こまっていたらちょっと助けてあげるとか、忘れ物をしていたら気軽に貸してあげるとか、親切にしているのかもしれません。
であれば、友達からもっと好かれます。
自分がしてもらってうれしいことをしてあげると、友達もよろこびます。
きっと、〇〇くんはそういうことをしているんだと思います。
人は一人では生きていけません。
友達がいるおかげで、楽しくなり、助かります。
〇〇くんが友達のいい友達なら、その友達も〇〇くんのいい友達になるでしょう。
2020年7月18日
君の良いところ 7 ~習い事を続けていること~
〇〇くんの良いところは、習い事をずっと続けていることです。
水泳教室や〇〇教室。
たぶん行きたくないときもあったはずです。
一度は、来る途中にひどい腹痛を起こしたのに、なんとか教室まで来たことがありました。
(治らないので、その後、家に帰りましたが、来るだけでもよくがんばりました。)
次の週は、元気に勉強しにきました。
先週は、左腕をけがをして病院に行く前に、教室まで勉強しに来ました。
痛いけれど、最後までがんばりました。
誰でも、体の調子の良くないときがあります。
けれども、休まずに行くというのは、たいしたものです。
休まずに行っていれば、きっと良いことがあります。
水泳も、おそらく習いはじめはあまり泳げなかったでしょうが、いまではもっと泳げるようになっているでしょう。
勉強でも、前には読めなかった字がたくさん読めるようになったでしょう。
書けなかった漢字がたくさん書けるようになったでしょう。
あいさつも、だんだんできるようになってきたでしょう。
このように、何事も続けていると、もっと上手にできるようになったり、もっとたくさん、もっとしっかりできるようになったりします。
〇〇くんは、がんばって続けているので、その分、成長しています。
これからも、できなかったことができるようになります。
少しずつ上手にできるようになります。
それは、きついことがあっても、がんばっているからです。
とても、えらいと思います。
2020年7月25日
君の良いところ 8 ~俳句の季語がわかったこと~
〇〇くんの良いところは、この前、俳句の季語がさっとわかったことです。
雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る
小林一茶
この俳句の季語は「雀」というよりも、「雀の子」でしたね。
〇〇くんは、それをずばり言い当てました。
「雀」という説もありますが、それは『歳時記』などでよく調べると違うようでした。
「雀」は渡り鳥のように季節によって長距離移動する習性はなく、一年中見かける身近な鳥です。そのため、「雀」だけでは季語になりません。
では、なぜ「雀の子」が、春を示す季語になるのでしょうか?
それは、雀は3月から4月(春)に繁殖・卵を産み、ヒナとなるからです。
ちなみに、小林一茶には、他にも次のような俳句があります。
我(われ)と来て 遊べや親の ない雀
この俳句の季語は、「親のない雀」つまり「雀の子」です。(季節は春)
小林一茶には、ほかにも次のような親しみやすい俳句があります。
名月を とってくれろと 泣く子かな
雪とけて 村一ぱいの 子どもかな
やせ蛙 負けるな一茶 これにあり
いろいろな俳句を味わってみましょう。
2020年8月1日
君の良いところ 9 ~雨が降って自分で行動できたこと~
〇〇くんの良いところは、先日、急な雨が降ってきたときに、家でせんたくものを部屋の中にとりこんだことです。
これをしなければ、せっかくせんたくをして、かわかしていたものが、雨で水びたしになってしまいます。
強い風でふきとばされていたかもしれません。
そういうことを未然に被害を少なくする行動だったのです。
もしかしたら、こういうことは、当たり前だと思うかもしれませんが、みんながみんなできるわけではないでしょう。
当たり前のことであっても、よく頭を使っていなればできないことです。
また、せんたくをしたお母さんのことを考えていなければできないことです。
考えた上で、速やかに行動していなければ、すぐに雨でびしょびしょになっていたでしょう。
ですから、せんたくものを部屋の中とりこむという行動を分析すると、次のようなことがあります。
1.急に雨が降ったことを知る。
2.干してあるせんたくものが雨の中でどうなるか、判断できる。
3.最悪の場合、お母さんが困ることも、予想できる。
4.最悪の防ぐために、何をすればいいか、考えることができる。
5,考えたことをすぐに行動に移すことができる。
6.一人でも、最後まで、やりとげる。
せんたくものは、1つの例です。
〇〇くんは、ほかにもしているし、できるでしょう。
このように、お母さんや人のために、その場、そのときに、何をしたらよいのか、自分で考えて、行動できるのはとてもすばらしいことです。
2020年8月8日
君の良いところ 10 ~思いやりある行動ができたこと~
〇〇くんの良いところは、思いやりある行動ができることです。
先日、家の中にお母さんもさわれないような虫が入ってきたときに、にがしてあげたそうですね。
その行動には、〇〇くんのやさしさが2つ、あらわれています。
1つめは、お母さんが感じられた、虫に対するやさしさです。
害虫といって、ほっておけば、人間に害をあたえる虫ならしかたがありませんが、
命があるので、むやみにころすのはよくないことでしょう。
思い出したのは、芥川龍之介という人が子ども向けに書いた物話「クモの糸」です。
クモの糸
ある日、おシャカさまは極楽のハス池のほとりを散歩していた。はるか下には地獄がああり、カンダタという男が、血の池でもがいているのが見える。
カンダタは生きていたとき、殺人や放火など、多くの悪い罪を犯した大どろぼうであった。しかしそんな彼でも一度だけ良いことをしていた。道ばたの小さなクモの命を思いやり、ふみころさずに助けてやったのだ。
そのことを思い出したおシャカさまは彼を地獄から救い出してやろうと考え、地獄にむかってクモの糸をたらした。
血の池でおぼれていたカンダタが顔を上げると、一筋の銀色の糸がするするとたれてきた。これで地獄から抜け出せると思った彼は、そのクモの糸をつかんで一生けんめいに上へ上へとのぼった。
地獄と極楽との間にはとてつもない距離があるため、のぼることにつかれたカンダタは糸の途中にぶらさがって休けいしていた。しかし下を見ると、まっ暗な血の池からはい上がりクモの糸にしがみついた何百、何千という罪人が、行列になって近づいてくる。
このままでは重みにたえきれずにクモの糸が切れてしまうと考えたカンダタは、「こら、罪人ども。このクモの糸はおれのものだぞ。下りろ。下りろ」と大声でさけんだ。
すると突然、クモの糸はカンダタがいる部分でぷつりと切れてしまい、彼は罪人たちといっしょに暗闇へと、まっさかさまに落ちていった。
この一部始終を上から見ていたおシャカさまは、悲しそうな顔をしてハス池を立ち去った。
2つめは、虫をさわれなかったお母さんへのやさしさです。
〇〇くんのおかげで、お母さんは助かったのです。
2020年8月22日