「昔話のふしぎな学校」という童話を書きました。
ももたろう、うらしまたろう、いっすんぼうし、かぐやひめ、おとひめなど、おとぎ話の主要人物がたくさん登場する童話です。
物語は、本を読むのが苦手な小学二年生のまことが、宿題のために、夕方一人で図書室に行ったところからはじまります。
そこで出会った白ひげのおじいさん先生から、まことは一冊のをすすめられました。
その本を読んでいるうちに、不思議な世界に入っていくのです。
では、はじまり、はじまり・・・。
ほうかごの図書室
小学二年生のまことは、本を読むのがにがてです。ですから、図書室にはめったに行ったことがありません。
でも、いままことは、夕やみにつつまれた学校のろうかを一人で図書室にむかって歩いています。じつは、図書室で本をかりてくることが、今日のしゅくだいなのです。
たんにんのきょうこ先生から、「休み時間にかりておくのよ。」と言われていたのに、すっかりわすれてサッカーにむちゅうだったまことは、家に帰ってからは、ゲームにむちゅうになってしまいました。
仕事から帰ってきたお母さんに、「しゅくだいはしたの?」と聞かれて、あわてて学校にやってくることになったのです。
学校には、もう子どもはだれものこっていないようでした。
うすぐらいろうかに、まことの足音だけがひびいています。図書室は、校しゃの三かいのはしっこです。
(おばけが出そうで、なんだかこわいな。早くかりて、いそいで帰ろう。)
図書室の前まで来ました。ドアをそろりとあけて、ギクリとしました。へやがパッと明かるくなり、白いひげのおじいさんがカウンターのむこうにすわっていたのです。しらない人でした。
まことが目を丸くしてつっ立っていると、おじいさんがにっこりしました。
「本をかりに来たのかい。」
「は、はい。」
「かんしんじゃのお。さて、きみはどんな本がすきなのかな。」
「いえ、あの、ぼく、じつは、あんまりすきじゃないんです、本は。」
「ハハハ、正直じゃな。だがな、これまで、絵本などを読んでもらったことはないかな。」
「あります。でも、ももたろうとか、むかし話ばっかり。」
「ええじゃないか。それなら、きみにはあの本はどうじゃろう。ちょっとまっていてごらん。」
おじいさんは、よいこらしょと、むこうの本だなまで歩いていき、まよわずに一さつの本をぬきとってきました。どうやらこの人は図書室の先生だと、まことは思いました。
「これはな、きみがしっているむかし話の主人公たちがたくさん出てくる本じゃよ。」
だいめいは、『むかし話のふしぎな学校』でした。
「おもしろいですか?」
「おもしろいかどうかは、きみしだいだよ。読んでみるかい。」
「はい。いまからさがさなくてもいいし、これならすぐ読みおわりそうだし……。」
白ひげの先生は、また「ハハハ。」とわらったあと、ふしぎなことを言いました。
「ものがたりというものはな、きみがおわらせたいと思うまでは、つづくんじゃよ。」
遠足はどこに行く?
「みなさん、こんどの遠足で行くばしょは、どこがいいですか。まず、今日てん校して来たまことくん、何かいけんがありますか。」
しかいをしていたももたろうに、とつぜん聞かれて、まことはびっくりしました。「いえ、とくに、べつに。」と、もじもじしていると、うらしまたろうが手を上げました。
「おれは、りゅうぐうじょうがいいな。」
書記の犬が、「りゅうぐうじょう」と黒ばんに書きます。いま、このむかし話のふしぎな学校では、クラスのみんなで話し合って遠足の行き先をきめているのです。
「でも、そこはわたしの家よ。自分の家に遠足に行くって、へんじゃない?」
口をとがらせたおとひめの顔を見て、うらしまたろうは、かたをおとしました。
「わたし、まだ一ども行っていないところがいいわ。」
と、おとひめがぽつりと言うと、した切りすずめのおばあさんが、どっこいしょと立ち上がりました。
「みなのしゅう、すずめのおやどには、だれも行ったことがないじゃろう。わしは、もう一ど行きたいぞな。」
「ずずめのおやど?おばあさん、帰り道で、ひどい目にあったんじゃないですか?」
と、きんたろうが言うと、みんながうなずきました。
「そのとおりじゃ。わしは、おみやげに大きなつづらをもって帰ったんじゃが、ばけものが入っておった。このつぎは、小さいのにしとくわい。宝ものが入っておるのでな。」
「おばあさん、きっと小さいのにも、おばけが入っていたと思いますよ。」
と、きんたろうが言いましたが、おばあさんは、
「そんなもん、開けてみんとわからん。」
と、がんこです。
楽しい遠足になりそう
みんなも、まこともあきれていると、
「ぼく、京のみやこがいいと思います。」
と、いっすんぼうしが小さな体ににあわず、大きな声を出しました。
「まあ、京のみやこ!すてきね。」
おとひめが目をかがやかせました。
「きょうのみやこって言うからには、きのうのみやこ、あしたのみやこも、あるの?」
と、おとぼけもののさるが聞きました。
「いえいえ、たしか京って、土地の名前だよね、かぐやひめ。」
いっすんぼうしは、京からてん校してきたかぐやひめに聞きました。
「はい、そうです。そして、京ということばには、みやこといういみもあるのですって。」
「ということは、みやこのみやこ、きっとにぎやかでしょうね。」
おとひめがうっとりしていると、した切りすずめのおばあさんの目が、ギラリと光りました。
「おい、かぐやひめ、京のみやこには、宝ものがあるのか。」
「はい、たくさんありますわ。」
「おお、それはええ。わしも行きたいぞ。帰りは、宝ものでいっぱいじゃ。ウヒヒ。」
おばあさんは、もう行く気まんまんです。
「では、みなさん、ほかに行きたいばしょは、ありませんか。」
ももたろうがたずねると、さるがすくっとと立ちました。
「あの、トイレに行っていいですか。」
まことはわらいそうになりましたが、いつものことのようで、だれもわらいません。
「では、そろそろ、たすうけつできめましょう。京のみやこがいいと思う人?」
ぜんいんが手を上げました。
話し合いをよこで聞いていた花さか先生が、にこにこしながら言いました。
「ハハハ。めでたい、めでたい。楽しい遠足になりそうじゃな。」
まことも、なんだかワクワクしてきました。
しかし、この遠足にはおそろしいことがまっていたのです。
童話「昔話のふしぎな学校」2につづく