月刊誌「れいろう」2016年7月号の「心に残る話」に紹介した話、タイトルは「けれども、人は変わる」です。
特に、なかなか変われない自分や一見ダメに思えるような子どもさんにお悩みの方にお届けします。
けれども、人は変わる。
「人は変わる」ということを伝えたいために、子育て講演などで、T君の話をすることがあります。
T君は子どもの頃、自分は教師にはなれないと思っていました。
理由がいくつもあります。
まず、給食で嫌いなもの、食べられないものがあったのです。
学校の方針で残してはいけないので、吐き気を我慢しながら口に入れ、あごを動かし、飲み込まなくてはなりません。
献立て表を何日も前からにらみ、学校に行くのが憂鬱でした。
またT君は、車酔いがひどくて、みんなが楽しんでいるバス遠足でひとり迷惑をかけました。
養護の先生に介抱していただきながら、「T君は、絶対に学校の先生にはなれないね」と言われなくても、車に乗る仕事はとうてい無理だとわかっていました。
さらにT君は、人前で話すのが苦手でした。
あがってしまい何を言っていいのか、わからなくなるのです。
そのため、小中学生の頃、人前で三十秒以上話したことはないでしょう。
おまけに、国語、特に文章を書くのも苦手でした。
ですから、人に教える仕事、ことさら学校の教師には向いていないと考えていました。
けれども、人間は変わるのです。
その後、T君は悩んだ末、大学は教育学部に入り、卒業すると、小学校の教師になりました。
その頃には、嫌いなものもだんだん食べられるようになり、給食を残したことはありませんでした。
車酔いはいまもあるのですが、酔い止め薬を飲みながら、バス遠足や修学旅行の引率もしてきました。
話はうまくはないのですが、これまで様々な人が教えてくださった良い話を伝えたくて、あちこちで講演をさせていただくようになりました。
子どもたちに読書の大切さを教えるようになってからは、本を毎日読み、読書が好きになりました。
さらに自分も本を書きたいと思うようになり、幸いにも、現在までに自著を六十冊ほど発行していただいています。
T君とは、俊已君、私のことです。
あの自分でさえ変わったのだから、人は誰でも変わると私は確信しています。
自分自身も、まわりにいる一見ダメに思えるような子どもも大人も、ちょっとしたきっかけや習慣で変わります。
苦手なことを克服するには時間がかかるかもしれません。
誰かの助けや支えも必要でしょう。
けれども、私たちにはまだまだ変わり、成長できる可能性があるのです。
作家・教育評論家 中井俊已
プロフィール 小中学校に23年間勤務後、現在は執筆と講演活動を行っている。著書に、『感謝の習慣が、いい人生をつくる』(PHP研究所)など多数。
【出典】公益財団法人モラロジー研究所 月刊誌「れいろう」2016年7月号の「心に残る話」
あなたも変わる
変わるというのは、成長することです。
あなたも、変わり、成長していきます。
少しずつ、少しずつ、変わり成長していけます。
あなたがどのような人になりたいか、
明確な目標ともち、歩みを続けていけば、少しずつ、少しずつ、その目標に近づいていけます。
時間がかかるかもしれません。
でも、あなたが目標に向かって歩み続ければ、あなたは変わっていきます。
小さな芽が大きな木になるように、あなたも日々、変化し成長していきます。