いい言葉

詩「あしあと」と詩の背景にあった物語

生きることに疲れ、人生の重荷に押しつぶされそうな、世界中の多くの人を励まし続けてきた詩をご紹介します。

この詩は、日本でも詩が書かれたカードや冊子をときどき目にします。

本記事では、この詩が誕生した経緯などもご紹介します。

それは、摂理的な話です。

詩「あしあと」

  あしあと

わたしは夢の中で見た

主と共に海辺を歩む自分と、空の銀幕に映る
過ぎ去ったわたしの生涯のすべての日々とを

なんと砂の上には、毎日の歩みをしるすふたりのあしあとが
並んで残っているではないか

ひとりのはわたしの、もうひとりのは主の

しかし、ところによってはひとり分のあしあとしか見あたらない

それは、よりによってわたしの人生で
最も困難でつらく、耐えがたかった日々にあたっている

そこで、わたしは主に不服を言った

「主よ、わたしはあなたと共に生きることを選び
あなたは、いつもわたしと共にいると約束してくださいましたね
それなのになぜわたしを独り、置き去りにされたのですか
それも、わたしが最もつらかった日々に」

すると、主はお答えになった

「わが子よ、わたしがあなたを愛していることを
あなたはよく知っているはすだ

わたしは一度もあなたを見捨てたことはない

ひとり分のあしあとしか残っていないところは
まさにあなたを腕に抱きあげ、
わたしが運んであげた日々だったのだよ」

M・フィッシュバック・パワーズ

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詩の背景にあった物語

この詩は、長い間、作者不詳とされてきました。

が、その背景に次のような感動的な物語があったことがわかっています。

1989年のことです。

カナダ人のポール・パワーズさんとマーガレットさん夫妻は、ある日、大きな試練に出会います。

ピクニックの最中、二人の娘のポーラが誤って高さ20mの滝に落ち、ポールさんも持病の心臓発作を起こして重体となったのです。

幸い父娘とも一命を取りとめ、病院に運ばれました。

入院中のポールさんに、看護師がこう話しかけました。

「このカードの詩は、励ましになるかと思うのですが……」
そして読んでくれたのが、「あしあと」だったのです 。

看護師は、読み終えると言いました。

「私はこの詩の作者を知りません。作者不明なのです」と 。

ポールさんは言いました。

「私は知っています。作者をとてもよく知っています。……私の妻です」と。

二人の生い立ちと出会い

実は、この詩は、25年前に二人が結婚の約束を交わした日に妻のマーガレットさんが書いたものだったのです。

ポール・パワーズさんは、幼い頃から父親に殴る蹴るの虐待を受けて育ちました。

7歳の時に最愛の母を亡くすと、非行に走りました。

近所の子どもたちと万引きしたり、集団強盗となったり、12歳の時には殺人事件にまで関わってしまいます。

少年院、刑務所を転々としました。

しかし、出所後、老年のクリスチャン夫妻のところでお世話になったことがきっかけで、心から自分の罪を悔い改めて、クリスチャンになる決心をしました。

そして、牧師になったのです。

一方、小学校教師だったマーガレットさんは、落雷事故に遭い、体調不良が増して、仕事は辞めざるを得なくなっていました。

そういう二人が教会で出会い、交際を経て、互いに愛し合うようになったのです。

こうして詩が生まれた!

1964年のことです。

ポールさんがマーガレットさんに指輪を渡してプロポーズした日、二人は海辺のほとりを歩きながら、将来のことを真剣に語り合っていました。

そろそろ戻ろうと思い、砂浜を折り返そうとした時に、二人の足跡が波でかき消され、一人分しか残っていないことに気づきました。

不安にかられたマーガレットさんはポールさんにつぶやきました。

「これは神様が二人を祝福してくれない暗示かもしれない」
「いや、二人は一つになって人生を歩んでいけるんだ」

けれども、マーガレットさんはまだ不安でした。

「もし二人で処理できない困難がやってきたら、どうなるの」
「その時こそ、主が私たち二人を背負い、抱いて下さる時だ。主に対する信仰と信頼を持ち続ける限りはね」

そして、ポールさんに抱きかかえられたマーガレットさんの不安は安心と信頼に変わっていたのです。

詩を書くのが大好きだったマーガレットさんは、その夜、なぎさでの出来事を詩に書きとめました。

その後、人前で話すことが多いポールさんは、機会あるごとに、この詩を紹介したそうです。

そうして二人が知らない間に、この詩は作者不詳として次第に世界中に広がっていきました。

そして、25年後、二人が大きな試練に出会ったときに、思いがけずに現れ、二人を勇気づけたのです。

「わが子よ、わたしがあなたを愛していることを
 あなたはよく知っているはすだ

 わたしは一度もあなたを見捨てたことはない」

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【出典】 「心の糧シリーズ② あしあと」編者ティッチィアーノ・ダニオッティ 訳者石川康輔 (ドン・ボスコ社)
マーガレット・F・パワーズ著 松代恵美訳『あしあと<Footprints>-多くの人々を感動させた詩の背後にある物語-』、(太平洋放送協会)