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信頼、愛、そして喜びの道を
歩み続けましょう。
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『マザーテレサ書簡集』という本が、いま手元にあります。マザーテレサの最後の手紙が収録されていました。
手紙の日付は、1997年9月5日。彼女が亡くなった日です。
実は、この手紙の日付を記したのは、マザーの後継者であるシスター・ニルマラです。
マザー・テレサは手紙の終りまで書けずに、天に召されたのです。
手紙は「愛する子どもたちへ」とありますが、明らかに、わたしたちすべての人に向けて書かれています。
最後の段落だけですが、ご紹介しましょう。
小さき花のテレジアがイエスのもとに帰って百年目の今年、教皇様は彼女を教会博士として宣言しようとしています。
そんなことが想像できますか。
小さなことに愛を込めて行ったというだけで、教会は彼女を聖アウグスティヌスや大聖テレジアと同じように博士にしようとしているのです。
それはあたかも聖書の中でイエスが一番下の席に座っている人に対して、「友よ、もっと善い席に着きなさい」と呼ばれたときのようです。
わたしたちも自分をとても小さくし、小さき花のテレジアの信頼、愛、そして喜びの道を歩み続けましょう。
そうすることで、花なる教会に多くの聖人を送り出すというわたしの約束が果たされるでしょう。
マザー・テレサの筆はここで終わっています。
ここまで書くと、神は彼女を自分のもとに引き寄せたのです。
この最後のメッセージには、マザー・テレサの生きた証が凝縮されているように思います。
このへんの事情をご理解していただくために拙著『マザー・テレサ 愛の花束』から引用します。
テレサという修道名は、ラテン語の訳から、「テレジア」といい、二人の聖人を表します。
一人は、「大きなテレジア」で、もう一人が「小さなテレジア」です。
「大きなテレジア」は、十六世紀スペインのカルメル会を改革した偉大なる「マリア・テレジア」を指します。
彼女は宗教改革による反対と迫害の嵐の中、新しい修道会を次々と創設していきました。
それに対し、「小さなテレジア」は、「小さき花のテレジア」とも呼ばれ、十九世紀終わりに二十四歳の若さで、祈りのうちに修道院内でひっそりと亡くなった聖人です。
彼女は、神と隣人を愛するために、小さなことを誠実に愛をこめて果たす聖性の道を示した人でした。
若きアグネス・ゴンジャが自分の修道名として選んだのは、この「小さき花のテレジア」でした。
のちにマザー・テレサとなってからも、彼女は「私は小さいほうのテレジアよ」と強調していたと言います。
小さき花のテレジアには、修道院長の命令によって書いた自叙伝があります。
彼女が帰天すると、すぐに公開され、その霊的レベルの高さから多くの人に感動を呼び、キリスト教諸国で一躍ベストセラーになりました。
その中で彼女が燃えるような思いをつづった次の文章は、そのままマザー・テレサの生き方にもあてはまります。
「私の天職、ついに私は見つけました。私の天職、それは愛です。
……あなたに私の愛をあかすために、私は花びらを投げるよりほかに方法がありません。それはつまり、どんな小さな犠牲も、一つのまなざし、一つのことばものがさずに、いちばん小さなことをみな利用してそれを愛によって行うことです」
(『イエズスのテレジア自叙伝』)
マザー・テレサも、小さきテレジアのこの言葉通り、目立たずに生きようとしました。
しかし、実際、その行いは広く知れ渡り、彼女は世界的な有名人になってしまいます。
「大きなテレジア」のように、類稀なる勇気と行動力、そして組織を運営する才にも恵まれていたからです。
マザー・テレサは、この二人のテレサの特長両方をもっている人だったといえるでしょう。
この二人のテレサの行動様式は違いましたが、重要なところで共通点がありました。
それは、愛ゆえに、愛のために神さまの望みの通りに生きようとしたことです。
そして愛こそが、マザー・テレサの天職だったのです。
マザー・テレサは、生存中から世界中に多くの人が、彼女を聖人として認めてきました。
そして、教会もマザー・テレサを聖人だと宣言しました。(2016年9月4日)
彼女の生涯は、神さまに示された道をひたすら歩んだ一生でした。
しかし、マザー・テレサが私たちにも、「歩み続けましょう」と言っているのは、彼女とまったく同じ道ではありません。
道はたくさんあります。神さまがその人に望む道はそれぞれ違うのです。
でも、歩む人の心が同じものを目指していれば、たとえ外観は違うように見えても、本質的には、同じものになるのです。
彼女が歩み、私たちにも求めたのは、信頼と愛と喜びにつながる道でした。
それは、自分がいま居る場で「小さなことを愛によって」おこないながら、自分もまわりの人も幸福にする道なのです。
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出典:編訳・片柳弘史著『マザーテレサ書簡集』(ドン・ボスコ社)
中井俊已著『マザー・テレサ 愛の花束』(PHP研究所)
2018年12月に出版されたマザー・テレサ著『愛のあるところ、神はそこにおられる』(女子パウロ会)の書評記事を2019年2月9日の「図書新聞」に書きました。こちらでご覧いただけます。