「(試合に勝つために)心と技と体、どれが一番大切ですか?」
明治大学教授の齋藤孝先生が、オリンピック金メダリストの吉田秀彦選手(現格闘家)にインタビューしたときのことを本で読みました。
吉田選手は、すごい体をしていますし、柔道の技も毎日、一所懸命に磨いています。
でも、齋藤孝先生から「(試合に勝つために)心と技と体、どれが一番大切ですか?」と聞かれて、吉田選手が一番大切だと答えたのは、「心」でした。
金メダリストの忘れられない思い出
吉田選手には忘れられない思い出があります。
1992年のバルセローナ・オリンピックのときのこと。
先輩の古賀稔彦選手と相部屋になり、階級は違うのですが、いっしょに練習をするようになったのです。
古賀稔彦選手は、「平成の三四郎」と呼ばれるほど、芸術的な一本背負いをする柔道家です。
ところが、練習中に体の大きい吉田選手は、先輩の古賀選手の膝を骨折させる大ケガを負わせてしまったのです。
オリンピック本番を10日後に控えて、大ケガをした古賀選手はショックですが、それに関わった吉田選手も大ショック。
これまでオリンピックで金メダルをとるために猛練習をしてきた選手が、その大会前に大けがをしてしまったのです。
左足側副靭帯損傷という普通に歩くのに一ヶ月、柔道をやるには一年かかると言われた大けがです。
その無念さはいかに・・・。
大ケガをした古賀選手の驚きの言葉
しかし、古賀選手は吉田選手と二人きりになると、意外なことを言いました。
「秀彦、オレはこれで、なんか金メダルが取れる気がするよ」
古賀選手の言っていることは、無茶苦茶、道理にかなっていません。
でも、マジです。
彼は真顔でこう説明しました。
「いままでは、たぶん金メダルを取れるとは思っていたけれど、どうも絶対的な自信がなかったんだ。だけど、これでなんか確信ができたよ」
吉田選手は、この人はなんてすごい人かと思ったそうです。
さらに古賀選手は言いました。
「秀彦、だから、お前もがんばれよ」
古賀選手には、信念があったのしょう。
「こういうピンチのときにこそ、勝たなければならない。それが真の武道家だ。」
それが、大会前に膝にケガをするという絶体絶命のピンチにあい、その武道家としての闘志が燃え上がったのです。
日本中に感動を与えた精神力
その結果はどうだったか・・・
まず吉田選手ですが、先輩の古賀選手にも勇気づけられ、見事、金メダルを取りました。
翌日は、いよいよ古賀選手の試合。
古賀選手は片足を引きずりながら、戦いました。
それでも、ひとり、またひとり倒していったのです。
決勝戦は、判定にもつれこみました。
が、古賀選手の勝ちを示す旗が上がった瞬間、古賀選手は、両手を広げ、泣くような顔で雄叫びをあげたのです。
「ウオッーーーーー!」
この場面は日本中に感動を与えたものです。
吉田選手も、嬉しくて嬉しくて涙があふれ出ました。
このとき、古賀選手も初めて金メダルを獲得できたのです。
もしも古賀選手がケガをしたとき、「オレはもうダメだ」と弱気になっていたら、負けていたかもしれません。
しかし、古賀選手は、そういうピンチのときだからこそ、心を奮い立たせて闘いました。
その気迫が後輩の吉田選手を勇気づけ、古賀選手自身の運命を切り開いていったのです。
ピンチのときに、誰にでもあります。
そういうときこそ、その人の真価が問われるのでしょう。
わたしたちも、どんな逆境にあっても、心は強く前向きに、自分の運命を切り開いていければと思います。
ピンチのときこそ、前向きにチャレンジしよう。
その強い心が幸運をもたらします。(^.^)
出典:『齋藤孝のガツンと一発シリーズ第9巻』(PHP研究所)