京セラ創業者、稲盛和夫さんが若い頃、「経営の神様」松下幸之助さんの話を聞いて大変感銘を受けたお話です。
本気で願う。
本気になって志を立てる。
本気であるからこそ、すべては始まるし、本気でなければ何も始まりもしないという、誰もが知っているようで、本気で考えている人の少ない深い教えです。
本気で願う人だけが分かることがある
稲盛さんが京セラを創業した頃、幸之助さんの講演会を聞く機会がありました。
当日、仕事の都合で遅れて、会場に一番後ろで立って聞いたそうです。
しかし、このとき、稲盛さんは、この会場にいた何百人もの中でおそらく誰よりも松下さんの話に強い感銘を受けたのです。
いまでもそのときのことを話題にされます。
幸之助さんの話は、いわゆる「ダム経営」についてでした。
「景気が良いときには、いずれ景気が悪くなるときのことを考えて、余裕のあるときに蓄えをする。つまり、水を溜めておくダムのように、景気が悪くなるときに備えるような経営をすべきだ」
という考えです。
講演が終わって質疑応答のときでした。
ある人が手を上げて言いました。
「そういう余裕のある経営をしなきゃならんことはわかります。しかし、そう思うだけでは仕方がないでしょう。余裕のある経営ができないので困っているんです。その方法を具体的に教えてもらわなきゃ困ります」
というような抗議めいた発言でした。
そのとき、幸之助さんは、大変困った顔され、しばらく黙り、そして、ポツリと、
「いや、それは思わんとあきまえんなあ」
と言って、そのまま黙ってしまったのです。
答えにもなっていないと思ったのか、聴衆は失笑してしまい、しらけた雰囲気になりました。
しかし、稲盛さんは違いました。
稲盛さんはその瞬間、体中に電撃が走るような思いに打たれたのです。
本気で願うことからすべては始まる
稲盛さんは、幸之助さんの「それは思わんとあきまえんなあ」という一言に込められた万感の思いに打れました。
その一言から稲盛さんは、こんなメッセージを受けたのです。
「あなたはそういう余裕のある経営をしたいと言います。でもどうすれば余裕ができるかという方法は千差万別で、あなたの会社にはあなたのやり方があるでしょうから、私には教えることができません。
しかし、まずは余裕のある経営を絶対にしなければならないと、あなた自身が真剣に思わなければいけません。その思いがすべての始まりなのですよ」
「それは思わんとあきまえんなあ」という一言を表面的にしかとらえられず、深く考えようとしない人はしらけてしまい、それで終わります。
しかし逆に、その真意を感じ取り、燃える人がいます。
そういう人が、本気になって夢をかなえていくのですね。
どんな人でも、「できればいいなあ」という程度では、高い目標や夢は実現しません。
まずは本気で思うこと。真剣に願うこと。
本気で思えば、そのための具体的な方法を必死で考えるようになります。
人に教えてもらうにしても、必死で学ぼうとします。
だから、本気で思うことはすべての始まり。
そして、本気で思うことはその人にしかできないことなのです。
松下幸之助さんは、『道をひらく』というご著書のなかでもこう言われています。
「志を立てよう。
本気になって、真剣に志を立てよう。
命をかけて志を立てよう。
志を立てれば、事はもはや半ば達せられたといってよい」
『道をひらく』の中で松下幸之助さんが言われることは、ほとんどが当たり前のことです。
でも、本気でやろうとしている人の心には響くのです。
本気で思おう。真剣に願おう。
そこからすべてが始まります。(^.^)
【出典】稲盛和夫著『働き方』
松下幸之助著『道はひらく』この本は昭和43年の発刊以来、累計500万部を超え、いまなお読み継がれる驚異のロングセラーです。