いい話

心が芽ぶく贈り物~感動のお年玉の話(東井義雄)

先日講演に伺った兵庫県の但馬地方には、東井義雄(とういよしお)という素晴らしい教育者がおられました。

「教育界の国宝」と言われ、ペスタロッチ賞、平和文化賞、小砂丘忠義賞、文部省教育功労賞受賞などを受賞されています。

そこで、今日は、東井義雄先生のご本で、30年くらい前に、読んで感動した話をご紹介します。

心が芽ぶく贈りもの

         心が芽ぶく贈りもの

東井義雄先生は、小学校校長時代、新年のお祝いとして全校児童にお年玉をくばろうと考えました。

しかし、貧しい学校に余分な会計はどこにもありません。

そこで、お金を使わないお年玉はないものかと職員全員で思案しました。

いい案が浮かばずにいるなか、ふと職員室の窓に目をやった東井校長に、ハッとひらめくものがありました。

校庭のすみに立っている大きないちょうの樹。

あの大いちょうの実をやることにしてはどうだろうと提案すると、他の職員たちも「それはすばらしい!」と喜びました。

「せっかくだから、いちょうの実に、子どもの顔を描いてあげよう」

「担任の手紙も添えてあげよう」ということになり、

「校長先生も言葉を添えてください」ということになりました。

 

男の子と女の子の顔を描いた2粒のいちょうの実と、担任の手紙と校長の手紙とを一枚の封筒に入れました。

表には「めでたくてめでたくてしかたのない袋」、

「おうちにかえってからおうちのみなさんといっしょにあけてください」

と書いて、冬休み明けに子どもたちに手渡しました。

「めでたくてめでたくてしかたのない袋」は、大反響を呼びました。

かわいい顔のいちょうの実が封筒からころがり出てきたとき、どの家でも喚声があがったといいます。

 

この袋の中の東井校長の手紙には、こう書いてありました。

「校庭の、天にそびえる大いちょうも、昔は一粒のいちょうの実だったんだ。

一粒のいちょうの実に、あんなにすばらしい大いちょうになる力がかくれていたんだ。

君の、あなたの体の中にも、すばらしい未来をつくる、不思議な力がこもっているんだよ。

それらが、芽が出たい、芽が出たいとウズウズしているんだ。

めでたい、めでたいと叫んでいるんだよ。

今年は、その芽をぞんぶんに伸ばしてみせる年にしようではないか。

さあ、どんなすばらしい芽を出させてみせてくれるか、
楽しみでしょうがない」

 

さて、この話には、後日談があります。

しばらくすると、

「わたしらが植えたいちょうの木が、こんなすばらしお年玉になって孫をはげましてくれるなんて」

と寝たきりのおじいさんから感謝の手紙が届きました。

里子として、里親を転々と変えられてきた不遇な女の子は

「運動場の大いちょうだって、いろいろいっぱい、つらいことにであって、
あんなに立派になったんのです。

わたしも、悲しいことにであって、くじけそうになったら、大いちょうのことを考えてがんばります」

と、言いに来てくれました。

 

さらに、このいちょうの実のお年玉は、次の年、家庭のお年玉を変える働きまでしたのです。

5年生の芳子ちゃんは、お年玉に小さい鏡をもらいました。

それにはお母さんの手紙がついていました。

「芳子ちゃん、おめでとう。

今年もがんばっていい子になりましょう。

あなたはとてもいい子なんだけど、お母さんが注意したとき、ふくれっ面になって、すねるくせがでます。

あれを直すことができたら、どんなにすばらしいことでしょう。

今年は、お母さんが高校の頃から大切にしてきたこの鏡で、すばらしいあなたになってほしいのです」

みゆきちゃんは「悪いくせをきっと直してみせます」と東井校長に小さい鏡のお年玉をみせにきてくれたのです。

 

3年生の保子ちゃんは、お母さんからお年玉に雑巾を2枚もらいました。

それにもお母さんの手紙がついていました。

「おめでとう。今年は保子も4年生になってくれる。

お母さんは楽しみでしかたがありません。

今年はお年玉にこれをあげます。

お母さんが心をこめてぬったぞうきんです。

1枚のぞうきんは、あなたの教室をピカピカにしてください。

もう1枚はあなたの心を、ピカピカにみがいてください

保子ちゃんは、

「先生、わたしこんなすばらしいお年玉をもらいました」

と、涙を浮かべながら、担任の先生にみせに行ったのです。

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心に響く、心を磨く

「お年玉」というと「お金」だとばかり思っていた私は、この話を知って、大げさなようですが、衝撃を受けました。

特に、2枚のぞうきんをお年玉にもらった女の子。

「1枚は教室を、もう1枚はあなたの心をピカピカに磨きなさい」

とお母さんから言われ、

こんな素晴らしいお年玉をもらったと涙を浮かべながら、先生に2枚の雑巾を見せるこの子の表情を想像すると、元小学校教師の私はほろりときます。

この子は、うれしく誇らしかったのですね。

「心を磨きなさい」とぞうきんをくれる母親がいること、

そして、この贈り物の素晴らしさをわかってくれる先生がいることも、涙がでるくらい、うれしかったのですね。

日本が貧しかった時代、兵庫県の山奥に、こんな親たちや子どもたちがいたのです。

こんな教師たちがいたのです。

そして、いまでも、この話を聞く人に、大切なことに気づかせてくれます。

心のこもった贈り物や言葉は、人の心を動かす。 (^.^)

【参照】東井義雄著『東井義雄「いのち」の教え』『母のいのち子のいのち』
東井義雄(1912~1991)先生は、食べる物にも欠く貧しい生活のなかで、教職を志し、小学校教師として、子ども、親、村を育てる教育を実践。「教育界の国宝」と言われ、ペスタロッチ賞、平和文化賞、小砂丘忠義賞、文部省教育功労賞受賞などを受賞されています。