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新聞コラム1「生まれてこなければ」「あじさい劇場」

長崎市で教師だった頃、地元の長崎新聞のコラム「うず潮」に月に1度、3年間ほどエッセーを連載させていただいていました。

それまで教師として学級通信などを書くことはあったのですが、不特定多数の方に、自分の文章を読んでもらうことは、ほとんど初めての経験でした。

この得難い仕事を通して、私は文章を書くことにだんだん魅せられていきます。

当時は思いもよらなかったのですが、このエッセー連載を機に、教師をやめて、文章を書く仕事をすることになります。

その後、幸運にも本を何十冊も出版していただけるようになったのですが、ご紹介する新聞記事は、その原石となったのです。

連載コラムをまとめた冊子の編集後記に、こんなことを書いています。

百の言葉を並べてみても

一つの行いに かなわない

百の行いを重ねてみても

一つの真実に かなわない

そして 一番尊い真実は

目には見えないものだろう

それを見たくて見せたくて

人は文字を書くのだろうか

当時、文字を書くことは、自分の真実を刻む営みのように思っていたのです。

トップの写真は、23年間勤務していた精道三川台小学校(長崎市)の昼休みの風景。 

生まれてこなければ

 一年以上前のコラムが、今だに頭の隅にある。「生まれてこなければ、よかった」で始まる平成九年二月十一日付『長崎新聞』の「水と空」である。        

 「盛岡市教委のアンケ-トで三分の一を越える小中学生がそう答えている」とあった。「まさか」と疑う反面、「ついにここまできたか」と衝撃を受けた。     

 アンケ-トを見たい。そう思って手紙を書いたところ、盛岡市教育研究所長さんが『研究紀要』の写しを送ってくださった。   

 「もう一度子供たちの本当の姿を見ようとして行った調査」の結果は、報道された通りであった。

 悲しいかな。その結果は「生きる力」に乏しいと言われる現代っ子全体にあてはまるように思えてならない。

 なぜ、こんなことになったのか。問題の原因究明をしていくほどに、その根が深いと思い知った。

 たとえば、その原因を「子は親の鏡」という至言にならって「子供社会の現象は大人社会の反映だ」と捕らえればどうか。「生きる力」に乏しい現代の子供の姿は、大人の生き方にこそ問題の根があるのだ、と言える。

 では、大人の何が問題なのか? 

 そんな性格が暗くなるようなことを数日間考え続けていると、ふいに小学一年生の子供に言われた。

「先生、このごろ遊ばないね」  

 いかん。いかん。自分の考えごとに夢中で、目の前にいる子供の姿を見失っていたようだ。

 ・もう少し遊ぶこと。

 ・もう少しほめること。

 ・もう少し祈ること。

 以前学校の機関誌に書いた「新年の抱負」を思い出し恥ずかしくなった。            

 こんな人間だけれど、「生まれてきてよかった」と思い続けたいし、思ってももらいたい。そう願い、この欄を書いていこうと思う。

  1998年6月13日「長崎新聞」

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あじさい劇場

 長崎市の花、紫陽花が咲く頃、「あじさい劇場」という名の児童文化祭をわが校では催している。 

「クラス全員が出演する手作りの劇」そして「小学生の英語劇」は全国でも珍しい取り組みなので、新聞・テレビでも毎年、取り上げていただいている。

 上演が成功した時の喜びは格別だが、脚本執筆、練習、道具作り、リハ-サルと続く二カ月の間に「ああ大変」とぼやきたくなる時もある。現に「毎年するはやめようか」と教員間の話に出たこともあった。

 どうにか続けてこられたのは、子供たちの成長する姿があったからだ。そして保護者の熱い支援のお陰もあろう。衣裳・小道具作りの手助けはもちろん、家庭での裏話を聞くのも励みになる。次は一年生の保護者の声である。

 「日に日に劇にのめり込んでいくのが分かりました。読書日記はほとんど劇の台本、そのうち暗記してしまいました。歌をうたいながらすべての役を一人で練習し、テレビよりも夢中でした」と、家でも熱中し出す子がいるらしい。

 「トイレに台本を持ち込み、しばらく出てこないと思っていると、ブツブツ声や歌が聞こえてきました。それ以来‥‥」人知れず練習に励む子もいれば、家族皆で読み合わせを楽しむ子もいるそうだ。  

「ぼくが休んだり、失敗したらみんながダメになると言うのです」と、劇を創る中で自分の存在意義、友達との連帯を学び取る子もいる。 

 近年、いじめ、校内暴力、自殺、殺傷事件など、暗いニュ-スが教育界には絶えない。「生きる喜び」や「生きる力」を言葉で説くのは易しいが、実感させ体得させるのは、いかに難しいことか。けれど紫陽花を打つ雨水と同様、命の輝きにその苦労は欠かせない。

 一人ひとりが生き生きと輝く教育の舞台を保護者と力を合わせてつくっていきたい。

    1998年7月24日「長崎新聞」

新聞コラム 2「親子野外レク 」「家事分担のすすめ」長崎市で教師だった頃、地元の長崎新聞のコラム「うず潮」に月に1度、3年間ほどエッセーを連載させていただいていました。 この得難い仕事を...