「昔話のふしぎな学校」という童話を書きました。
ももたろう、うらしまたろう、いっすんぼうし、かぐやひめ、おとひめなど、おとぎ話の主要人物がたくさん登場する童話です。
物語は、本を読むのが苦手な小学二年生のまことが、宿題のために、夕方一人で図書室に行ったところからはじまります。
そこで出会った白ひげのおじいさん先生から、まことは一冊のをすすめられました。
その本を読んでいるうちに、不思議な世界に入っていくのです。
童話「昔話のふしぎな学校」1 を未読の場合、先にこちらからどうぞ。
おにがあらわれる
さて、遠足の日です。
むかし話のふしぎな学校のみんなは、元気に京のみやこにむかって、出ぱつしました。
しばらく歩くと、みやこのほうから、三人の男がさけび声をあげて走ってきました。
「あー!」
「いー!」
「うー!」
「どうしたんですかな?国語の勉強ですか。」と、花さか先生が聞きました。そういえば、一年生のときに同じような勉強をしたと、まことは思い出しました。
三人は、ガタガタふるえながら、首をよこにふりました。
「えー、えげつない」
「おー、おにのばけものが、出たんどすわ」
「えげつない?」と、きんたろうは首をかしげました。
「ひどいとか、あくどい、といういみですわ。」と、かぐやひめが言いました。
「おにたいじなら、ぼくの出ばんだ。」と、いっすんぼうしが声を上げました。
ももたろうも、「日本一」と書いてあるはちまきをキリッと、しめなおしました。
しかし、三人はこわそうにふるえて、
「わ、わてらは、にげることにしましたさかい。ほな、ごめんどす。」
と、言いのこして、走って行っていきました。
「どすこい。この遠足、おもしろくなってきたぞ。」
きんたろうは、うれしそうです。
そこへ、むこうから、とらがらのパンツをはいた赤おに、青おに、黄色おにが三人、こわい顔をして走ってくるではありませんか。
まことは、はじめて見るおにのすがたにおそろしくなりました。かぐやひめ、おとひめ、うらしまたろう、した切りずずめのおばあさんも、おびえています。
しかし、さすがにももたろうは、おにを見てもへい気です。
「さっきの人たちをおいかけてきたんだな。ぼうたちが、たすけてあげよう。」
「よし!」と、いっすんぼうしは、はりの刀をぬきました。
「どすこい!」と、きんたろうは、すもうのしこをふみ出しました。
さあ、ももたろう、いっすんぼうし、きんたろうの強いこと、強いこと。たちまち、おにたちをやっつけて、つかまえてしまいました。
「ハハハ。めでたい、めでたい。」
花さか先生は、せんすをりょう手にもって、大よろこびです。
さっきまでふるえていたした切りすずめのおばあさんは、ふろしきからはさみを出して、
いさみ出しました。
「やい。おにども、わるいことをすると、したを切ってしまうぞ。」
「ひえー、おゆるしください。」
三人のおには、頭をじめんにつけてたのみました。
「わたしたちは、わるいおにではありません。みやこにあらわれたばけものおにからにげてきたのです。」
「なに?おまえたちが、えげつないばけものじゃないのか?」
ももたろうが聞くと、三人のおには口々にこたえました。
「わたしたちは、おにがしまで、ももたろうさんにせいばいされたおにです。」
「あれから、心を入れかえ、まじめになろうと、しまを出てきたのです。しかし、どこに行っても、わたしたちのことを、きみわるがって、だれもしんようしてくれません。」
「そこで、京のみやこであばれているばけものをやっつければ、しんようしてもらえるだろうと思って、京にやって来たのです。」
「しかし、あのばけものには、とてもかないませんでした。ころされそうになったのを、いのちからがら、にげてきたのです。おはずかしい。」
「そんなにわるくて強いばけものおにがいるのか。ようし、せいばいしてやるぞ。」
ももたろうが言うと、いっすんぼうし、きんたろうの目がメラメラともえてきました。
「おい、おにども、そのばけものは宝をうばっておるのか。」
した切りすずめのおばあさんが聞きました。
「はい、たぶん。みやこの金もちの家をつぎつぎとおそっているそうですから。」
「なに!宝ものをひとりじめにしとるのか。それはゆるせん。」
おばあさんの目がギラギラしてきました。
「楽しい遠足のはずじゃったが、なんだかようすがちがってきたのお。まあ、ええじゃろう。このまま先に行ってみようかのう。」
花さか先生を先頭にして、みんなは、京のみやこへとすすんで行きました。
まことも、いっしょに歩きながら、むねがドキドキしてくるのでした。
ぜったいぜつめいのピンチ
京のみやこにつくと、先に空からようすを見てきたきじが、もどってきました。
「たいへんです!かぐやひめの家が、ばけものに、おそわれて、おじいさん、おばあさんがつかまっているようです。」
「えっ!」
かぐやひめの顔が青ざめました。
「みなさん、それではいそぎましょう。かぐやひめ、あんないしてくれんかね。」
花さか先生のかけ声で、みんなはいそぎ足になりました。
いっぽう、かぐやひめの家では、人の三ばいの大きさもあるばけものおにが、なわでしばられたおじいさん、おばあさんをといつめているところでした。とらがらのパンツをはいた、赤、青、黄色のまだらもようのおには、金色の頭の毛をふりみだし、するどいきばの出た口をひらきました。
「やい!かぐやひめはどこにいる?おれさまは、みやこの金もちの家をさがしまわった。しかし、どこにもおらん。おまえら、どこにかくしたあ。」
おばあさんはふるえて声が出せませんでしたが、おじいさんが答えました。
「しらん。たとえしっておっても、おまえなんぞに、おしえるものか。」
「ふん。では、いたいめにあってもらうぞ。」
ばけものおには、金ぼうをふり回し、二人をバシンバシンとうちたたきました。
「うー。」
おじいさんとおばあさんは、たおれても、はをくいしばり、いたみにたえていましたが、口やはなから血がながれ出てきました。
「どうだあ。かぐやひめのいるところを言う気になったかあ。」
「言わん。どれほどいたいめにあっても、かぐやひめはわたさんぞ。」
「ふん。しぶといやつらめ。いのちがおしくないのかあ。」
ふたたび、ばけものおにが、金ぼうをふり上げたたその時です。
「おじいさーん。おばあさーん。」
さけび声を上げてかけつけてきたのは、かぐやひめたちでした。おじいさんたちは、頭をもちあげて、かぐやひめのすがたをみとめました。
「おお、かぐやひめ、なぜここにおる。」
ばけものおには、かぐやひめにギョロリと目をむけ、ニタニタとわらいました。
「ほう、かぐやひめか、これはいい。」
「おい!ばけもの。やめろ!」
ももたろうが大声でさけび、おにの前にすすみ出ました。
「ぼくたちが、やっつけてやる!」
ももたろう、いっすんぼうし、きんたろうがゆうかんに立ちむかって行きます。
しかし、どんなおににもまけたことのない、ももたろうたちも、このばけものおににはかないません。三人とも、あっけなく、たおされてしまいました。
「ふん。子どものくせに、おれさまにかてると思ったのかあ。」
そのうしろに、うらしまたろう、おとひめ、犬、さる、きじたちにせなかをおされて、した切りすずめのおばあさんがガタガタふるえながら、前に出てきました。
「し、しかたがない。このひっさつした切りばさみをくらえ。」
しかし、おばあさんはおににつきとばされ、うしろにいたみんなも、そばにいたまことも、いっしょにたおされてしまいました。
花さか先生は、
「まあまあ、ここは、お手やわらかに、お手やわらかに。いっしょに花見でもしませんですか。」
と言ってみましたが、おにのはないきでふきとばされました。
もはや、ぜったいぜつめいのピンチです。
童話「昔話のふしぎな学校」3 につづく