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「こうのとりのゆりかご」~母と子を救う~

認定NPO法人「こうのとりのゆりかごin 関西」の理念や活動をご存じでしょうか。

以前、京都大学医学部の講堂で行われた「こうのとりのゆりかごin 関西」主催の「名前のない母子をみつめて」というテーマの講演会と対談に参加して、私が知り得たことをご紹介します。

この会には、友人から入場券をもらい、ほとんど義理で参加したのですが、話を聞いているうちに、だんだん意識が変わってきました。 

気がつくとノートを取っており、多くの人にこの会の内容を知ってほしいと思うようになったのです。

その後、主催者である「こうのとりのゆりかご in 関西」の人見滋樹理事長の了解を得て文章化させていただきました。

以下は、連載エッセー「いのり・ひかり・みのり」(「カトリック生活」2017年8月号)連載第69回「母と子を救う」という記事です。

「こうのとりのゆりかご」

多くの胎児の命が失われています。

日本での人口妊娠中絶数は、厚生労働省の統計によると、平成27年度は176,388人です。一日に480人以上もの尊い命が犠牲になっているのです。

中絶に至らずとも、望まない妊娠を知り、誰にも打ち明けられずに悶々と思い悩む女性は、数字には表させないほど多くいます。

その結果、こっそりと産んで、人知れず遺棄してしまうケースも少なくはないでしょう。

そのため、熊本市の慈恵病院は、2006年5月から「こうのとりのゆりかご」を開始しました。

「こうのとりのゆりかご」(俗称:赤ちゃんポスト)とは、諸事情のために育てることのできない新生児を親が匿名で特別養子縁組をするための施設およびそのシステムです。

同時に慈恵病院は、予期せぬ妊娠や赤ちゃんの将来のことを電話やメールで相談する窓口「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」の運用も始めました。

「こうのとりのゆりかご」で預かった赤ちゃんは、この10年間で130名となり、「SOS妊娠相談」の相談件数は、年間6500件を超えるようになりました。その多くは熊本県外からです。

このような状況下、関西でも「こうのとりのゆりかご」を立ち上げようという動きが活性化しています。

特定非営利活動法人「こうのとりのゆりかご in 関西」は、慈恵病院の取り組みに賛同し、電話相談窓口 「思いがけない妊娠SOS」と、神戸市北区のマナ助産院に「面談型こうのとりのゆりかご」を2017年度中に開設することを目指して準備中なのです。

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「名前のない母子をみつめて」

2017年6月4日、京都大学医学部の講堂で、「こうのとりのゆりかごin 関西」主催の「名前のない母子をみつめて」というテーマの講演会と対談があり、拝聴してきました。大変密度の濃い3時間超でした。

開会の挨拶では、「こうのとりのゆりかご in 関西」の人見滋樹理事長から、「思いがけない妊娠に悩む女性と赤ちゃんを救いたい」という法人設立の目的と経緯の説明がありました。

提言では、マナ助産院の永原郁子院長が、「妊婦と赤ちゃんの命を救うために」と題して「一人でも命を守ることができればいい」「命を生み出したことは素晴らしいことだと女性の自尊心を高めていきたい」と熱い思いを語りました。

講演1では、慈恵病院理事長の蓮田太二氏が、車椅子の上から、十年間の取り組みを報告し、「命を救うだけではなく、子どもの幸せを願ってやみません」「愛情ある家庭で一日も早く子どもを育てられるようにしたい」と力強く語りました。

講演2では、ドイツや世界の赤ちゃんポストの事情に詳しい柏木恭典氏(千葉経済大学准教授)が、「日本で赤ちゃんポストは容認されてはいるが、いまだに非合法なのはおかしい」とし、ドイツ、アメリカ、諸外国での取り組みについてユーモアを交えつつ熱弁しました。

その後、講演者二人の対談と参加者からの質疑応答。

最後は、小林和副理事長が「いのちを守るため、私たち、まず私が、できることをしていきましょう」と閉会の挨拶をしました。

自分にもできることを

会に参加して、恥ずかしながら初めて知ったことが多くありました。

その一つは、熊本市慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」は、この10年間、行政やメディアの無理解や偏見と抗いながら設立され運用されてきたことです。手放しで容認されたわけではなく、批判や冷たい風当たりも多くあったのです。

ゆえに、日本における第二の「こうのとりのゆりかご」は、容易に実現しませんでした。関西で作ろうという動きがあっても、神戸市などの指摘で、医師がいない助産院での設置は預け入れられた子どもの診療などの面で医師法に抵触する恐れがあるなどと難色を示されてきたのです。

私は、初めて敢行し継続してきた慈恵病院の方々と、それに続こうとする方々の勇気に敬意を感じます。

思い出すのは、マザー・テレサが、「子どもの家」をつくった経緯です。

それは、マザー自身がゴミ箱に捨てられていた赤ちゃんを見つけ、連れて帰ったのが始まりでした。

それ以来、「殺さないでください。私たちが育てますから」と、多くの赤ちゃんを受け入れ育て、世界的な養子縁組も実現してきました。

医師でもなく、助産師でもないほとんどの人には、赤ちゃんを受け入れ育てることはできないかもしれません。

でも、応援はできそうです。

自分にもできる支援をしたいという人は、HP「こうのとりのゆりかご in関西」をご覧ください。

あなたのおかげで、神様が授けてくださった命が救われます。

2017年8月号「カトリック生活」(ドン・ボスコ社)「いのり・ひかり・みのり」より

「こうのとりのゆりかご in 関西」は、2021年2月10日付で、認定NPO法人(認定特定非営利活動法人)となりました。

中井俊已(なかいとしみ)
長崎大学在学中、ローマにて聖ヨハネ・パウロ二世教皇より受洗。私立小・中学校教諭を経て、現在は兵庫県芦屋市にて作家・教育評論家として執筆・講演活動を行っている。著者に『マザー・テレサ愛の花束』(PHP研究所)『永井隆』(童心社)『平和の使徒ヨハネ・パウロ二世』『クリスマスのうたものがたり』(ドン・ボスコ社)など多数。