先日、ある保育園で講演をした後、読み聞かせについての質問を多く受けました。
「私が読んでほしい本でなくて同じ本ばかりを読んでとねだるんですけれど、いいんでしょうか」
「いつ頃まで読んであげればいいのでしょうか」など。
その後、「カタコトながら一人でだいぶ読めるようになったし、私も忙しいから、やめていたんですけど、やっぱりもう少し続けます」と言いに来られるお母さんもおられ、うれしく思ったものです。
やはり大切なことは、わかっていても、ときどき思い出すことが必要だと思い、今回は読み聞かせの話をします。
読み聞かせで子どもは伸びる
どの教育講演会でも、私は読書や読み聞かせの大切さをお話しします。
この頃、やや落ち着きに欠け、人の話をきちんと聞く力に乏しい子が多くなってきているそうです。
そういう子に、「しっかり話を聞きなさい」と注意しても、一時的にはできるのですが、長続きしません。聞く力の土台となる集中力や持続力が弱いからです。
学校でも社会でも人の話がきちんと聞けるということは、とても大切です。なぜなら、情報の多くは人から聞くことによって得ることができるからです。学力を獲得する点でも、聞く力は読み書き以前の基礎的な能力なのです。
たとえば、朝礼で校長先生の話があった直後、教室で子どもたちに「今日はどんな話だったかな」と尋ねてみると、その内容をしっかり聞いて覚えている子もいれば、覚えていない子もいます。
理解力、記憶力、表現力に違いがあるのは当然ですが、聞いたことを理解し、記憶し、第三者に伝えるためには、まず人の話をしっかり聞くことがどうしても必要なのです。
その聞く力をつけるために、家庭でもカンタンにできて、効果的なのが、読み聞かせです。
時間は、短くてかまいません。
絵本や童話を読んであげるとよいでしょう。続けると、必ずや子どもに聞く力や集中力が育ちます。
また、活字に親しみ、読書が好きになります。読書が好きになると語彙が増え読解力も養われ、国語の力を中心に学力は高まっていきます。
心が豊かになり絆も強まる
読み聞かせの良さは、それだけではありません。読んであげる本が感動をさそう物語なら情感豊かな子どもに育ちます。
それ以前に、子どもは喜び、親子の絆がいっそう深まるでしょう。
児童文学者である松居直さんは、幼い頃、お母さんが絵本を読んでくれたことで至福の時を過ごしたと、いまでもありがたく思うそうです。
仕事で忙しく疲れているお母さんが、自分のために夜寝る前に読んでくれることで、幼心にお母さんの愛情をめいっぱい感じることができたからです。
松居さんが大人になって福音館書店を創設し、長く絵本作りの立派な仕事ができたのは、その幼児体験のおかげかもしれません。
ところで、「同じ本ばかりを読んでせがまれるのですが」という質問を小学生の子をもつお母さんからも受けたことがあります
私は次のようにお答えしました。
「何度も何度も同じ本を読んでもらったり、読んだりできるってすばらしいことですよ。歌人の俵万智さんは、3歳のときにある本がすごく好きで、お母さんにその本ばかり読んでもらっていたそうです。そのうち、その本を全部暗記して、空で言えるようになったんです。
俵さんがその後、読書が好きになり、歌の世界に入って活躍されるようになったのも、そういう幼児体験があってのことではないでしょうか」
母親になった俵万智さんも、息子さんに「もっかい! もっかい!」と読み聞かせをせがまれることがあるそうです。
同じ絵本を大人が繰り返し読むのは結構大変なこと。親になってお母さんの愛情の深さにしみじみと感謝するそうです。
大人への読み聞かせを
読み聞かせは、小学生・中学生に対してもたいていの学校ではおこなっていますし、私もそうしてきました。
いまでも私は講演のとき、大人に向けてよく絵本の読み聞かせをします。それは、伝えたいことを物語の中でじっくりと心で受けとめ、考えていただきたいからです。
読み始めると子ども向けの絵本なのに、多くの方々が真剣に耳を傾け、感動して涙を流されます。それほど、絵本の読み聞かせには大人にとっても効力があるのです
ところでちょっと飛躍しますが、昔から聖書のみことばは教会の中でほとんどの場合、読み聞かせによって伝えられてきました。
いまでもミサの中で聖書はしっかりと朗読され、私たちの多くは読み聞かせによって神のみことばという種を受け入れています。
「ほかの種は、良い土地に落ち、実を結んで、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。」(マタイ13-8)
まかれた種がどれほどの実を結ぶかは、私たち次第でしょう。読み聞かせのときの子どものように、素直な心で聞く「良い土地」でありたいものです。
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『カトリック生活』2014年2月号 連載エッセー「いのり・ひかり・みのり」第27回 拙稿「読み聞かせの効力」より