いま、ゆず(果物)を主人公とする絵本を考案中なのですが、その取材見学のために、先日、四国山地の奥にある小さな山村に行ってきました。
その村はJRも国道もない、高知県安芸郡馬路村です。
高知県は、ゆずの生産が日本一です。中でも馬路村は、ゆずの加工販売で近年、飛躍的な成長を遂げてきた村として知られています。
人口約1000人に満たない過疎山村(2022年調査834人)でありながら、1981年からゆず加工品の販売を始め、2005年に売り上げ30億円、年間観光客が村民の50倍まで成長したのです。
以後、その事業を継続して発展させています。
しかし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
馬路村は、どのようにして、「村おこし」に成功できたのでしょうか?
その心意気や方法は、私たちにも学べることがありそうです。
「堂々たる田舎」への一人旅
JR高知駅からローカル線に乗って約1時間半、安田という駅に着き、安田中学校前のバス停で、馬路村行きのバスに乗りました。
驚いたことに、乗客は80歳くらいの地元の男性と私二人だけ。
途中でその男性が下車し、誰も乗車してこなかったので、約40分間、乗客は、私だけ(ちなみに帰りのバスは、なんと最初から最後まで乗客は私一人)でした。
それでも構わずバスは、緑に囲まれた狭い山道をぐんぐん勢いよく走っていきます。
まるで、バスを自分一人で貸し切っているみたい。
こんな経験は初めてでした。
林業から、「ゆず」栽培・加工へ
馬路村はもともと、林業で非常に栄えていました。
村全体の面積の96%が森林だという特徴があり、村のほとんどの人たちが林業に携わっていたのです。
杉を植えて材木として販売する事業でしたが、昭和20~30年代にかけて徐々に林業が衰退し、新たな職を求めて村から人口がどんどん流出していきました。
「林業に代わる新たな産業を構築しなければならない」という機運が高まり、ゆずに脚光が当たります。
高知県では昔から、ゆずが日常生活の様々なシーンで使われていました。
絞り汁をお酢に入れたり魚にかけるなどして、普段の食卓で活用されていました。
また、すし飯に入れるケースもあります。
県内の消費量が高かったことから、馬路村でもゆずを栽培しようといった流れになったのです。
馬路村では、兼業農家が多いため、専業農家と違い手間をかけられないので、形がよい商品になる柚子がなかなかできなかったため、加工品にして販売することにしました。
苦難の連続を乗り切って
しかし、加工品の販売は決して順調だったのではなく、実際は苦難の連続でした。
当然ながら県内におけるほかの自治体でも同様の動きがあり供給過剰感ぎみになっていました。
そこで昭和50年前後からは、県外に販路を求めて、現地まで行き、様々な商品PRを行うようにしたのです。
しかし、当時は、ゆずがまだ全国的に一般的ではなかったため、県外では、「ゆずってなに?」と質問されることも珍しくなかったのです。
「ゆずのしぼり汁」の販売をスタートさせましたが、当時は、ほとんど売れず、赤字赤字の連続でした。
このような苦難のときも、決してあきらめずに事業を遂行していった立役者は、もともとこの事業を発案した農協職員、東谷望史氏です。
東谷氏は、馬路村への郷土愛、子どもの頃から大好きなゆずへの思いを胸に、長年に渡って強いリーダーシップをとり、粘り強く事業を推進していきます。
また、商品が売れない苦しい時期に、馬路村出身者であった神戸大丸の食品係長の協力により、通行量の多い場所で販売をすることができ、売れるきっかけとなりました。
ゆずの加工品の通販へ
その後、馬路村農協は、昭和61年にはぽん酢しょうゆ「ゆずの村」、昭和63年にははちみつ入りゆず飲料「ごっくん馬路村」が発売されました。これらが大ヒット!
それぞれ、西武百貨店の「日本の101村展」で最優秀賞、農林部門賞の輝かしい実績から、馬路村の商品が次第に認知されるようになり、売上を大きく伸ばすことに成功しました。
購入してくれた人たちから「またほしいです。どこで売っていますか」といった内容の手紙が徐々に届くようになり、通販の取り組みも加速していきました。
いまでは、通販での取り扱いが約30~40%になっているそうです。
現在は、ゆずドリンク「ごっくん馬路村」、そしてポン酢しょうゆの「ゆずの村」を2枚看板に、約70種類の商品を提供し、さらなら新商品を開発中です。
「馬路村」ブランド化
加工品を開発するのと併行して、農協は村と協力して、「馬路村」のブランド化を図りました。
ゆず加工商品に「馬路村」の 特徴を出すため、村の子供やお年寄り、山・川などの自然をパンフレットや情報誌で紹介して「馬路村をまるごと売り込む」(都会に向け、自然や田舎をテーマ にした情報を発信する)ことを、開始したのです。
自然に満ちあふれている「堂々たる田舎」が馬路村のキーワードです。
また、通販の請求書にお礼のメッセージを同封して、お客様の囲い込みに努力しました。
この結果、柚子商品の知名度を利用して、各種事業の相乗効果により、年間6万人の観光人口を実現します。
馬路村の観光施設
最初に、村役場(失礼ながら意外と立派な建物)に行って案内地図をいただきました。
その後、できるうる限り、いろいろな施設を回って見学しました。
自分の名前も仕事も旅の目的も告げませんでしたが、どこでも、皆さん、親切でした。ありがとうございます。
農協直売所
うまじ村産の森の木を使ってできた地元製品の直販所です。元は旧魚梁瀬森林鉄道の駅舎でした。
ゆず製品はもちろん、他にも木工芸品やお土産物も取り揃えています
ゆずの森加工場
うまじ村の名物「ごっくん馬路村」の製造ラインや、製品を箱詰めする荷造り場などを自由に見学できます。
見学後は、魚梁瀬杉が使われた広々としたロビーでゆっくりくつろぐこともできます。
馬路温泉
馬路温泉は良質の湯と心温まるおもてなしが自慢の宿。
目の前には清流「安田川」が「サラサラ」と心地よい音を聞かせてくれます。
また周辺にはインクラインや森林鉄道があり馬路の代表的な観光拠点にもなっています。
帰りのバスの時間を待つ間、私は安田川の清流に足をつけながら、山々の緑を眺め、「ごっくん馬路村」を飲む、ゆったりとした豊かな時間を過ごすことできました。
ありがとうございました。
参照:馬路村公式HP 馬路村農協HP 冊子『日本遺産 森林鉄道から日本一のゆずロードへ』(中芸ゆずと森林鉄道日本遺産協議会)