絵本・子どもの本

絵本『ひめじ城ナイト』が面白い

先日読んだ絵本『ひめじ城ナイト』が面白いのでご紹介します。

絵本自体が面白いのですが、私にはこの絵本の企画も興味深かったです。

この企画は、絵本に興味がない人にも関心をもってもらえそうな要素があるので、先にご紹介しましょう。

この絵本『ひめじ城ナイト』は、兵庫県姫路市にある金木犀舎(きんもくせいしゃ)さんから2023年10月31日に発刊されました。

街の本屋さんがだんだん消えていく(ここ20年で約2万店から1万店に半減した)ことに象徴されるように、近年、出版界は右肩下がりの不況です。

それでも、地方の小さな出版社が良い本を創ろう、読者に喜んでもらおう、地域を盛り上げようとがんばっているのを見るとすごいと思うし、学べることもあります。

では、この絵本のどんな点が面白いか、いくつかあげてみます。

企画・制作過程が面白い

1.著者がユニーク

 この本の著者(文の担当)は「みんつ」(みんなで絵本をつくる会)という兵庫県(とくに播磨地域)の絵本好きな人たちと姫路市にある出版社・金木犀舎(きんもくせいしゃ)で構成されるグループです。(絵は、神戸市在住のながせたいりさん)

 この「みんつ」という会がユニークです。
 普通、「絵本の読み聞かせ会」「絵本・子どもの本の研究会」の類は、全国各地にたくさんあります。
 でも、「みんつ」のように「いっしょに絵本を学び、絵本について語り、絵本をつくっていく会」は、珍しい。しかも、各自が自分の絵本作るのではなく、みんなで1冊の絵本をつくる会というのは、他に例がないと思います。

 職業も経歴も年齢もたぶん考え方も異なる「みんな」が1冊の絵本を創るのって、楽しそうだけれど、(自分のアイディアが取り上げられなかったり、意見が対立したりすることもあるでしょうから)運営が難しくなることも多いのではないかと推察できます。

 でも、この会の事務局である金木犀舎(社長)さんが上手に調整しているのでしょうね。

 月1回程度の集まりで、2022年4月には『あげはくんとしらさぎさん とくべつなともだち』という絵本も発行、2024年2月までに、会は26回続いています。たいしたものです。

 ちなみに、メンバーは常時募集中で、会費は無料です。(これもユニークです)

 私は姫路までは遠方だし、創造的なことは一人でコツコツやるタイプですが、勉強のためにできれば1度は参加させていただきたいなあと思っています。

2.地元の小学生にアンケートをとって制作

 絵本『ひめじ城ナイト』を創るにあたって、みんつは、地元の小学生1251名にアイディアを募集しました。HPの本の紹介ページから引用します。

「姫路城には68匹のシャチホコがいるって知ってた?
 ヒトがいなくなった夜の姫路城で、子どもたちの願望をシャチホコがぜーんぶ叶えちゃう!

 もしも姫路城があなたの家だったら…
 ・なにをして遊ぶかな?
 ・どんなことに困るかな?
 ・どんなふうにリフォームや模様替えをするかな?
 3つの質問について、小学校や学習塾、イベント等でアンケートに答えてくれた1251名の子どもたちの自由で豊かな発想を物語に盛り込みました。」

つまり、地元の小学生も大勢まきこんで、みんなで絵本をつくる。こんな絵本の作り方、他に私は知りません。

ちなみに絵本の「裏見返し」には、感謝をこめて、なんと1251人の全員の名前が記載されていました。

3.姫路城の世界遺産登録30周年のお祝いに

  
 1251人の小学生にアンケートをとって、そのアイディアで、地元の絵本好きな仲間が創るという発想は非常にユニークで、それだけで話題性があります。

 さらに、日本で初の世界文化遺産である国宝、姫路城の世界遺産登録30周年(2023年12月)に合わせて発刊(2023年10月31日)されているので、さらに盛り上がります。

 実際、地元のテレビニュース・新聞等のメディアで、絵本の完成前から完成後も、何度も取り上げられました。

 この絵本を読んで、姫路城に行ってみたくなる子どもは少なくないでしょう。兵庫県内は無論、全国各地から家族といっしょに、修学旅行生として…。

 姫路城近くのお土産さんには、この絵本が販売されているそうですし、地元の書店さんには特設コーナーができたとのこと。

 この絵本のおかげで、観光関係者や書店さんや地元住民たちも活気づいたのは確かなのです。

4.「読み聞かせ」で広める

 さらに、みんつの皆さんは、地元の小学校を訪問して絵本の「読み聞かせ」活動をしました。子どもたちは大喜びです。

 その様子がまた、地元のメディア(テレビなど)に取り上げられて、盛り上がっています。

 今後は、幼稚園にも「読み聞かせ」に行くらしいです。

 私も今年から近くの保育園2園で「読み聞かせ」をさせていただいているのですが、読んでみようと思います。

 きっと幼児も喜ぶと思います。

こんなふうに1冊の絵本制作を通して、多く人とつながり、協力し合っていくことで、文化が生まれ、喜びが広がり、個人も企業も地域も活性化していけるって、すごいと思うのです。

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絵本の中身も面白い

絵本『ひめじ城ナイト』の中身も面白いです。

 

姫路城には、68匹のしゃちほこがいるそうです。

しゃちほことは、城の天守閣や屋根などに使われる装飾です。姿は魚で、頭は虎、尾ひれは常に空を向き、背中には幾重もの鋭いとげを持っている想像上の動物で、城を守っているとされています。

この絵本では、68匹に名前(絵本の「見返し」で紹介)がつけられ、それぞれに個性があります。

そのしゃちほこたちが、人間がいなくなる夜(ナイト)に城内で、かけっこをしたり、つなひきをしたり、おにごっこをしたり、・・・・思い思いに楽しく過ごすのです。

普通ならありえないことばかり、さすがに小学生の発想です。

それに、姫路城のある欠点(人間も困ること)が、共感できてユーモラスに描かれていて笑えます。

しゃちほこたちが画面のすみっこのほうでも、それぞれに何かやっていたり、つぶやいていたりするので、じっくり絵を見るだけでも、幼児から小学生、大人までいっしょになって楽しめますよ。