以前、学習塾で個別に小学4年生の子に国語を教えていました。
軽度の発達障害をもった子でした。
小3まで通っていた学童保育では、「人間じゃない」と罵倒されたこともあると、お母さんが言われていました。
この子の自己肯定感を育てるために「宝物ファイル」を作ってもらい、賞状や思い出の写真の他に、1枚の紙を入れて、毎週お母さんから「〇〇くんの良いところ」を一言書いてもらっていました。
私も毎週、A4一枚に紙に、少し長い文章を書いて入れてあげていました。
数年後にでも、気が向いたときに読んでくれればいいなと思ってのことです。
これからご紹介するものは、その手紙です。
振り返ってみると、〇〇くんに限らず、他の子にも言えるようなことばかり書いていました。
そこで、ご家庭や他の教育機関で、子どもを指導するときに、ご参考になればと思い、ご紹介していきます。
20枚ありますので、5つずつに分けます。
君の良いところ1 ~いま生きていること~
当たり前に思うかもしれないけれど、
〇〇くんの良いところは、いま生きていることです。
生まれてきたこと。
いま生きていること。
それだけで、人は価値があるのです。
このことは、だれか大切な人が死んでしまうときに、いっそうよくわかります。
大切な人が死ぬと、家族や友達はかなしみます。かなしくて泣きます。
そのショックから何年も何年も立ち直れない人もたくさんいます。
生きていてほしかった。
なにか、特別なことをしてくれなくてもよかったのです。
何かダメなところがあっても、病気であっても、そのままでも良かったのです。
ただ、この世に生きていてほしかったのです。
人間とは、そのような存在です。
〇〇くんも死んでしまえば、悲しむ人が必ずいます。
〇〇くんがいま生きていること、存在しているだけで、価値があるのです。
2020年6月13日
君の良いところ2 ~可能性にあふれていること~
〇〇くんの良いところは、可能性にあふれていることです。
〇〇くんは、たくさんの可能性をもっています。
可能性というのは、いまはまだできないけれど、
こらから先、(がんばれば)できるという意味です。
夢があれば、実現できる可能性があります。
進みたい道があれば、その道を選んで進むことができます。
〇〇くんは、いま小学校4年生。
来年は小学5年生、次は6年生、いずれ中学生になります。
さらに高校生になり、大学生になるでしょう。
大人になって何かの仕事に就くでしょう。
結婚をして、家庭をつくり、子どももできるでしょう。
いろいろな可能性にチャレンジし、夢をかなえることができます。
日本人の平均寿命は、男性が約81歳です。
おそらく81歳をこえた人は、自分の人生は残りわずかだと思うでしょう。
ときどき、小学生の頃の自分を思い出して考えるかもしれません。
あの頃には、なんてたくさんの可能性があったんだろうって。
どうして、たくさんの可能性にチャレンジしてこなかったんだろうって。
いまの〇〇くんは、81歳の人が持っていないものを持っています。
それは、あふれるほどの可能性です。
2020年6月20日
君の良いところ3 ~学校に行っていること~
〇〇くんの良いところは、学校に行っていることです。
これは当たり前ですが、実は当たり前ではないのです。
いまから150年くらい前に、明治時代になって、義務教育の学校ができました。
でも、始めのころは、高い授業料をとったし、そのころ日本はまずしく、子どもも働かないと生活できなかったので、ほとんど人は学校に行けませんでした。
ですから、そのころ、子どもだった人には、字が読めない人、書けない人はたくさんいました。
いまのように小学校6年、中学校3年が義務教育になったのは、1947年からです。
全員が無料で学校に行けるようになったのはいいのですが、行けない子も出てきました。
それは、いろいろな理由からですが、多くの理由は、学校がその子にとって楽しくないところになったからでしょう。
学校では、勉強をしなくてはなりません。
勉強は、たのしいところもありますが、むずかしいこともあります。
学校には、いろいろなルールがあります。
ルールには、かんたんなこともありますが、きついこともあります。
むずかしいこと、きついことが多くなれば、学校に行きたくなってくるものです。
そんな子が増えてきたのです。
他にも、いじめの問題、家庭のいろいろな事情で学校に行けなくなった子もいます。
行きたくても行けないで、家に閉じこもっている子もいるのです。
ですから、学校に行って勉強して帰ってくるというのは、当たり前のようですが、当たり前にはできないと思います。
〇〇くんは、学校に行っています。
行くだけで、がんばっているのです。
学校に行っていろいろと勉強して帰ってきます。
がんばっているからできるのです。
それを繰り返しできるというのは、〇〇くんのとても良いところなのです。
2020年6月27日
君の良いところ4 ~お手伝いをしていること~
〇〇くんの良いところは、お手伝いをしていることです。
しかも、〇〇くんのしている風呂掃除は、ただのお手伝いでありません。
家事分担(かじぶんたん)です。
お手伝いは、誰かを手伝うことですが、家事分担は、自分が責任をもって家の中の仕事を家族で分担してやることです。
家の中には、食事の準備、部屋の掃除、洗濯など、たくさんのいろいろな仕事があります。
それを全部お母さん一人でやるのは、大変なことです。
どの家でも、子どもも家族の一人として、その仕事を分担してやっています。
家の仕事を分担すれば、みんなが助かるのです。
〇〇くんは、風呂掃除をしていると聞きました。
風呂をわかすのもしているかもしれません。
それをきちんとしてもらうと、忙しいお母さんは助かるのです。
風呂場は、梅雨や夏には汚れが多くなり、カビがはえやくなります。
それをこまめに、掃除するのは大切なことです。
そのおかげできれいな水のお風呂に気持ちよく、入れます。
お母さんが助かるだけでなく、〇〇くんのためにもなります。
掃除をきちんとできることは、勉強をきちんとできることにつながります。
また、将来の仕事をきちんとできることにもつながります。
仕事によって、人間の能力や責任感は高まっていくからです。
2020年7月4日
君の良いところ5 ~生まれてきたこと~
誕生日、おめでとう!
〇〇くんの良いところは、生まれてきたことです。
誕生日は、その人が生まれてきたことを喜び、祝福する日です。
生まれてきてくれてありがとう。
この世に存在してくれてありがとう。
ここにいてくれてありがとう。
いままで生きていてくれてありがとう。
そういうふうに思ってくれる人がいるはずです。
〇〇くんは、お母さんから生まれてきました。
だから、誕生日はお母さんに感謝する日でもあります。
お母さんのいのちも、〇〇くんのいのちも神様からいたただきました。
ですから、〇〇くんの誕生日を神様も祝福しておられるでしょう。
誕生日、おめでとう。
2020年7月10日