いい話

「先生、この仕事、面倒くさくない?」

放課後等デイサービスに勤めていたときの話です。

放課後等デイサービスの特長の1つは、教室での活動の前後、学校から自宅、あるいは自宅から自宅まで、車での送迎サービスがあることです。

実は、この送迎時の車中が児童とふれあい、指導もできる絶好の機会・時間となりえます。

先日、小学2年生の男子を小学校に迎えに行った際、車中でその子がドキリとするようなことを聞いてきました。

「先生、この仕事、面倒くさくない?」

この質問をきっかけにその子といろいろと話ができました。
短い時間でしたが、わたしにも意義のある楽しい会話でした。

質問の背景?

話しながら、この子は、放課後等デイサービスの教室に居るときと、車中で一対一で話をしているときと全然態度が違うなあと思いました。

教室では、わざと先生たちを困らせるようなことをします。勉強の時に学校では許されない姿勢を故意に取ってみたり、次の活動をボイコットして走り回ったり・・・。

衝動的にやってもいますが、先生によって態度を変えてもいます。

しかし、この子は、実は
「先生たちが困っていたら助けてくれる?」
と頼むと、その時の状況を見て助けてくれる子なのです。

その2日前に、わたしがある子(△△ちゃん)にかかりきりで、身動きできないときに、
「〇〇(その子の名前)、△△ちゃんのために、絵本を選んで、もってきてくれないか」
と頼むと、「うん、いいよ」と素直に聞き入れてくれて、一緒に読み聞かせを聞いていました。

その延長上にある、「先生、この仕事、面倒くさくない?」という言葉は、日頃、先生たちが困っていること(困らせていること)を十分承知した上で、かけてくれたこの子の優しさだとわたしは受けとめました。

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仕事についての会話

さて、以下は、この子との車中でも一対一での会話です。

「先生、この仕事、面倒くさくない?」

うん、面倒くさいよ。仕事って、たいてい面倒くさいものなんだよ。でも、楽しいときも、おもしろいときも、うれしいときもあるものなんだ」

「ぼく、面倒くさくないのがいいな」
「そうだな。〇〇(その子の名前)は、将来、どんな仕事がしたい?」

「うーん、まだよくわからないけど、食べもの屋さんかなあ」
「そう、いいねえ。〇〇が食べもの屋さんやったら、先生も食べにいきたいよ」
「うん」

「でもね、食べもの屋さんって、作るのは楽しいし、作ったものを食べるのはおいしいけど、それをお客さんに出したら文句を言う人だっているんだよな。〇〇が一生懸命作ったものを、こんなのおいしくないって言われたら嫌だよね。そんな、面倒なこともあるんだよ」
「うーん」

「それでも、大人がどうして仕事をすると思う?」
「どうして?」

「それはね、一つにはお金をもらうためだよ。お金をもらって生活しなきゃならないんだ。〇〇のお父さんも、仕事をしてるだろ」
「うん」
「お父さんも一生懸命仕事をしてお金をもらって、それで〇〇たち家族がちゃんと生活できているんだ」
「そうか。でもお母さんはお金もらってないよ」

「うん。お母さんもスゴイんだよ。お母さんは、お金をもらわなくても、毎日、〇〇たち家族のために、面倒でもご飯を作ってくれたり、掃除をしてくれたり、洗濯をしてくれたり、いろんなことをしてくれているだろ、お母さんはスゴイんだ」
「そっか」
「どうして、お母さんがお金もらわなくても、そんなに毎日毎日、面倒なことをやってくれてると思う?」

「・・・・(考えている)」
「たぶんね、〇〇たち家族みんなが大好きだからだよ。大好きな家族のために何かしてあげたいんだよ」

「うん」
「だから仕事ってね、すごく面倒だけど、いいことがいっぱいあるんだ。お金のためでもあるけれど、それだけじゃないんだ。自分のためでもあるけれど、人のためでもあるんだ。だから、自分の仕事で誰かが喜んでくれたりすると、嬉しいし、楽しいし、面白いんだ。もっとやりたくなるんだ」 

その後、教室で

その後、教室では、やはり衝動的に行動し、先生たちを困らせる彼でしたが、家族のために、ある記念日の手紙を作ったときは、とても一所懸命でした。

その前に動機づけの人形劇をしたり、他のスタッフの声掛けがあったりしたおかげもあったのでしょう。
彼は一番大きな赤いハートマーク、小さなたくさんのハートマーク、「いつもありがとう」「いつもありがとう」「大すき」「大すき」「大すき」の文字を、紙からはみ出るくらいたくさん貼り付けながら、うれしそうに手紙を作り上げました。

 

作家 中井俊已【フォロバ100】