作家、三浦綾子さんの『言葉の花束』(講談社文庫)という本がいま手元にあります。
この本は、三浦さんのご著書からの「いい言葉」を集めたものです。
前にもご紹介したことがあるかと思いますが、今日はその中から2つ、ご紹介します。
「人間は弱い」「あなたはなくてはならない存在」
●「人間は弱い者である。たとえ幾多の才があっても、大きな意欲があっても、『ダメな奴』と言われればたちまちしぼんでしまう。逆に、才がなくても気力がなくても、相手の一言によって生きる力を与えられる」:『忘れえぬ言葉』(小学館)
●「何十億の人に、かけがえのない存在だと言ってもらわなくてもいいのだ。それはたった一人からでいい。
『あなたは、わたしにとって、なくてはならない存在なのだ』と言われたら、もうそれだけで喜んで生きていけるのではないだろうか」:『三浦綾子 文学アルバム』(主婦の友社)
三浦綾子さんは、日本が戦争に負けたことがきっかけで、これまで教師として子どもたちに教えてきたことにむなしさを感じます。
そして、人も自分も信じられなくなり、自殺までしようとします。
しかし幼なじみの前川正さんのおかげで、ようやく、信じられる存在に出会えます。
ところが、まもなく、最愛の人、前川さんは病死。
悲しみの底に突き落された綾子さんは、肺結核とともにおこった脊椎カリエスのため、ベッドの上でギブスにくるまれて身動きできず、ただ泣くことしか許されないありさまでした。
1年後、生前の前川青年とそっくりの三浦光世さんが不思議なことに彼女の病室に現れます。
「神様、この人のために自分の命を捧げてもかまいません。ですから、この人を治してください。」と祈った三浦光世さん。
「あなたは、わたしにとって、なくてはならない存在なのだ」
というメッセージを綾子さんは、前川さんや光世さんを通して神様からいただいたのです。
13年間の闘病生活を終え、綾子さんと光世さんは結ばれます。
わたしたちは本来、一人ひとりがなくてはならない存在です。
この世に不要な人は、ひとりもいません。
生きている人には、必ず、生かされている理由があるのです。
使命があるのです。
「だれかを幸せにする」
三浦綾子さんの使命は、人間の罪深さと神様の愛を伝えるために、小説を書くことだったのでしょうか。
小説やエッセーを通して、
「自分がどんなにダメに思えても、あなたもわたしも、神様にとっては大切な子どもなのですよ」
というメッセージを伝えることだったのかもしれません。
わたしたちにも、人生の使命があります。
たぶん、わたしたちの最も貴く、価値ある使命は、
「だれかを幸せにすること」
今日、だれか一人でも幸せにできれば、今日、わたしたちは、十分に価値ある時間を過ごせたのではないかと思うのです。
あなたは大切な人だと伝えよう。言葉、または行ない、または笑顔で・・・
出典:三浦綾子『言葉の花束―愛といのちの792章』(講談社)
真実の出会い、心と心のぶつかり合いで人は変わる
それにしても、三浦綾子さんは実に不思議な人生を歩まれた方でした。
彼女が自殺までしようしたドン底の生活のなかで、どのように人生に光と希望を見出していったか、
ご興味のある方には、この本をおすすめします。
三浦 綾子『道ありき 青春編』(新潮社)
生後まもなく失明され、その後の出会いによって、テノール歌手となった新垣勉さんの言葉です。
「真実の出会い、心と心のぶつかり合いで人は変わり得る。そして、人間は、他者にもそういう出会いを提供する存在になろうと努力し続けることできると気づかせてくれたのが、この本、(『道ありき』)なんです」(2002年5月26日『読売新聞』)