子どもの頃、『泣いた赤鬼』の話を一度は読んだことがあるでしょう。
最後の場面で、主人公の赤鬼は親友の青鬼の手紙を読んで泣くのですが、
この物語は、決して悲しいだけの話ではありません。
むしろ外見にはとらわれない心の優しさ、本当の友情のあり方などを教えてくれる心温まる物語です。
今日は、この物語を再び、思い出してみましょう。
『泣いた赤鬼』のストーリー
では、ストーリーを短く要約し、最後の青鬼の手紙をご紹介します。
ある山奥に、心の優しい赤鬼が住んでいました。
人間と仲良くしたいけれど、自分の思いを受け入れてもらえない赤鬼のために、友だちの青鬼は一計を案じます。
二人で芝居をしようと提案をするのです。
「まず、村で、僕(青鬼)が暴れる。
そこへ君(赤鬼)がやってきて、僕(青鬼)を追い払う。
すると、人間は君(赤鬼)を信用するようになる」
という筋書きの芝居です。
「それでは青鬼くんにすまない」
としぶる赤鬼を青鬼は、村に無理やり引っ張っていって、この計画は成功しました。
赤鬼は願いどおり、村の人たちと仲良くなれます。
でも、青鬼はそれっきり姿を見せなくなりました。
あの芝居のときに、わざと自分で柱に額をぶつけて
具合を悪くているのかもしれないと心配した赤鬼は、
ある日、青鬼の家を訪ねてみます。
しかし、青鬼の家の戸は固くしまっていました。
その戸のわきに、手紙が貼りつけてあるのを赤鬼は見つけます。
「アカオニクン、ニンゲンタチトハ ドコマデモ ナカヨク
マジメニ ツキアッテ タノシク クラシテ イッテ クダサイ。
ボクハ シバラク キミニハオメニカカリマセン。
コノママ キミト ツキアイヲ ツヅケテイケバ、ニンゲンハ、
キミヲ ウタガウ コトガ ナイトモ カギリマセン。
ウスキミワルク オモウナイデモ アリマセン。
ソレデハ マコトニ ツマナラナイ。
ソウ カンガエテ、ボクハ、コレカラ タビニデル コトニ シマシタ。
ナガイ タビニ ナルカモ シレマセン。
ケレドモ、ボクハ、イツデモ キミヲ ワスレナイ。
ドコカデ、 マタ アウ ヒガ アルカモ シレマセン。
サヨウナラ。
キミ、カラダヲ ダイジニ シテ クダサイ。
ドコマデモ キミノ トモダチ
アオオニ」
赤鬼は、黙ってそれを繰り返し読みました。
そして、戸に手をかけ、顔をおしつけ、涙を流すのでした。
泣いていたのは赤鬼だけ?
この物語のタイトルは『泣いた赤鬼』なのですが、この手紙を書き、旅立った青鬼も泣いていたのでしょうか。
それはこの物語に書いていないので、私たちの想像が許されることです。
私は、青鬼も泣いていたと考えています。
ひとりで山奥に住む青鬼には、恐らく赤鬼しか友だちがいなかったはずです。
その唯一の親友の赤鬼が願っていたことは、人間と親しくなりたいということ。
青鬼は、赤鬼の願いを自分が犠牲になって叶えてあげます。
そして、赤鬼が人間に疑われないように、自分は姿を消すことを選びます。
「ボクもキミといっしょに仲良く暮らしたかった」
そんなことは一言も言わずに、
「キミ、カラダヲ ダイジニ シテ クダサイ。」
赤鬼の幸せが続くことを祈りながら、あの手紙を書いたのです。
しかし、旅立つ青鬼は、涙を流しながらも、これでいいと思っていたはずです。
赤鬼の願いの叶うことが、青鬼の願いでしたから。
それが青鬼の喜びであり、幸せであったのですから。
旅立つ青鬼は、ひとりぼっちになったのではありません。
旅立つことで、より強く赤鬼と結びついたのです。
「ドコマデモ キミノ トモダチ」
この青鬼の最後の言葉は、赤鬼の心情でもあります。
遠く離れても、二人はさらに強い友情で結ばれたのです。
赤鬼の手紙
さて、その後、赤鬼にはどうしたのでしょうか。
私の想像では、赤鬼は涙をふきながら、次のような手紙を青鬼にしたため、青鬼の手紙の代わりに戸のわきに貼り付けます。
青鬼くん
おかえりなさい。
長旅で疲れてはいませんか。
持病の腰痛はだいじょうぶでしたか。
青鬼くん、本当にありがとう。
おかげで、ぼくは人間たちとやっと仲良くなれました。
でも、そのために青鬼くんがいなくなってしまうのは、とても辛いことです。
ぼくは、人間たちに、本当のことを話します。
君がぼくのためにしてくれたこと。
そして、君がどんなに優しい鬼かということも伝えます。
きっと人間たちはわかってくれます。
君をあたたかく受け入れてくれます。
青鬼くん、君と会いたいです。
この後、君を探しに行きます。
でも、どこを探せばいいか、わかりません。
だから、君がここにまた帰ってくるのを期待して、この手紙を書いているんです。
君と会いたいです。
いますぐにでも会いたいです。
帰ってきたら、すぐにぼくに知らせてください。
お願いです。お願いです。お願いです。
ドコマデモ ドコマデモ ドコマデモ キミノ トモダチ 赤鬼
このあとのストーリーは、みなさん、考えてみてくださいね。
その後の物語
ちなみに、私の考えるストーリーです。
ある日、木を伐りに山の奥に行った村人二人が、青鬼が川のそばに倒れているのを見つけます。
「あっ、あれは、青鬼さんじゃないか」
村人は赤鬼から、青鬼は実は悪い鬼ではないと知らされていましたので、警戒心はありません。
近づいていると、やせ細った青鬼は、倒れたまま動けそうもありません。
「腹を空かせているのかな。おにぎり一つしかないが、さあ、食べてくれなされ」
村人の一人がおにぎりを差し出すと、よほど空腹だったのか、青鬼は一息で食べました。
「赤鬼さんを呼んでくるから、ここで待っていてくれ」
村人がそう言って立ち去ってから、小一時間ほどして、赤鬼が走ってやってきました。
背中には、食べ物をいっぱいつめたふろしきを背負っています。
「青鬼くん、ああ、青鬼くん、行く当てもなく旅に出て、こんな姿になってしまったのか」
赤鬼は、薄汚れやせ細った青鬼を抱き寄せ、大粒の涙を流しました。
青鬼も泣いているような、笑っているような顔で、目にいっぱいの涙をためていました。
私たちは、決して一人ではありません。
私たちも、誰かのおかげで、誰かとともに、幸せになれます。
優しさと優しさが共鳴して、幸せが生まれるものです。(^.^)
【出典】浜田廣介作『泣いた赤鬼』
作家 中井俊已 メルマガ「心の糧・きっとよくなる!いい言葉]より