前半で、小学5年生のときから
●「カナダのプリンス・エドワード島に行きたい」
●「本を1冊出版したい」
という夢をもっていた岸信子さんのお話をしましたね。
岸信子さんは、10人の子どもをもつ母親です。
今日は、その後半です。
では、続けます。
今を大切にして、自分が変わろう!
「決心」に至る岸さんの心境は次のようなものでした。
今、子育てに手一杯の現実で、夢を追いかけているとストレスが溜まるばかり・・・。
あれもできない、これもできないという理由を子どものせいにしている。
それは、おかしい。
大好きな人と結婚できて、3人の子どもに恵まれたのに、この現実を受け入れないのは、自分がよくない。
自分が変わろう。
岸さんの「決心」はこうでした。
「今しかできないことを楽しもう。この現実を否定してしまう夢なら、今は、ひとまず横に置いておこう。
(押入れにしまって、ガムテープをしておこう。)
大切なのは今、この時だから」
岸さんはその決心を具体的な行動で表わしました。
そして、その行動を習慣としました。
決心を行動に、行動を習慣にする「良かったノート」
それは、毎日「良かったノート」をつけるということです。
この「良かったノート」は、岸さんが小学5年生のときに、大好きだった物語『少女パレアナ』の少女パレアナに習って名づけたノートです。
『少女パレアナ』の主人公、パレアナはプラス思考の女の子です。
コップに少ししか水が残っていなくても、
「わあ、よかった。こんな暑いときに、水が飲めてうれしい!」
と言うような子なのです。
小学5年生の彼女は、自分もこんな女の子になりたいと思って、パレアナのように「良かったノート」をつけていたのです。
岸さんは、その当時の自分を思い出し、また毎日「良かったノート」をつけることにしました。
その「良かったノート」には、子どもたちのことが書かれるようになりました。
長男が今日、こう言ったとか、次男がこうして嬉しかったとか・・・
小さなうれしかったこと、良かったこと、面白かったことを見つけて書き留めておくのです。
たとえば、まだ幼い長男との楽しい感動的な会話。
あるとき、長男が聞きました。
「お母さん、どうして空にお星さまがあるか知ってる?」
「えっ、どうしてかな?・・・」
「お母さん、知らないの?じゃあ、教えてあげようか」
「うん、教えて」
「それはね・・・空がさびしくないようにだよ」
(この子って、なんて詩人なのー、と母はいたく感激)
その日の「良かったノート」に書きました。
また、次男との楽しい会話。
ある日、次男が叫びました。
「お母さん、大変だ、おっことしちゃた。」
「なに?なにをおこっとしたの?」
「鼻くそだよ」
「えっ?鼻くそ・・・」
この次男は鼻くそを丸める趣味があったのです。
「ああ、だいぶ大きく育てたのになあ」
「そ、そう。どこにいったのかしらね。見つからなかったら、また育てればいいじゃない」(笑)
こんな話を、その日の「良かったノート」に書きました。
そうしているうちに彼女は気づきます。
子どもって、大人と全然違う発想をする。何て面白いんだろう。何てユニークなんだろう。何て可愛いんだろう。
子どもという時期は、今しかない。子育ては今しかできない。
「良かったノート」は3年間続けました。
毎日、楽しかったこと、面白かったこと、うれしかったことを発見していきました。
それ以後は、「良かったノート」が必要となくなるほど、毎日が楽しかったこと、面白かったこと、うれしかったことの連続となりました。
「子育てって、本当に楽しい!」
次々、子どもが生まれ、いつしか彼女は、10人の母親になっていました。
小学5年生からの
●「プリンス・エドワード島に行きたい」
●「本を出版したい」
という夢は、遠いところへいったかに見えました。
しかし、そうではなかったのです。
ついに、ついに夢が叶う!
あるとき雑誌の童話のコンクールが目にとまりました。
書くことは好きだったので、ふと書いて応募してみようと思い立ちました。
アイディアは、「良かったノート」にたくさんありました。
難なく書き上げ、応募しました。
すると、なんと最高賞を受賞したのです。
表彰式に行って、賞状と副賞を受けました。
副賞は海外旅行でした。
と言っても、どこに行ってもいいというわけではありません。
指定された場所へのペアの航空券が渡されるのです。
その副賞が書かれている紙を見て、岸さんは驚嘆しました。
鳥肌が立ちました。
そこには、大好きな『赤毛のアン』の舞台となった地名が書かれていたのです。
●カナダ
えっ、まさか?
●カナダ、プリン
冗談?
そこには、本当に、
岸さんが小学5年生から行きたい、行きたい、行きたいと夢見ていた地名が書かれていたのです。
●カナダ、プリンス・エドワード島
ちなみに、岸さん夫妻は結婚当初からお金がなかったので、新婚旅行に行っていません。
その後も子どもが次々生まれ、とても旅行どころではありません。
海外旅行なんて、一度も行ったことがありません。
夢のまた夢でした。
それが、あこがれのプリンス・エドワード島に行けるのです。
しかも、この世で最も大好きな人、夫とふたりで・・・。
「一生に一回のチャンスだから、子どもたちのことは心配しないで行ってきなさい」
と岸さんのお母さんが、子どもたちの世話を引き受けてくれることになりました。
こうして、岸さん夫妻は、数日間、夢のような楽しい旅行ができたのでした。
こうして、1つ目の夢は思いがけず実現しました。
その後、10人の子どもを生み育ている岸さんは、地元の熊本県民テレビで、ときどき取り上げられようになりました。
そんな中で、熊本日日新聞社の人から、
「岸さんの子育てのご経験を書いて出版しませんか」
という誘いがきたのです。
岸さんは、10人の子どもを抱えて、自費出版するお金など到底捻出することはできないし、とても無理だと思いました。
「いえ、お金はいりませんよ」と新聞社の人。
「えっ、タダですか?」
「はい、そうです」
「えっ、タダ!? じゃあ、やります、やります、やります!」
岸さんが10人の子どもを育てた経験、「良かったノート」が元になって、さ『子育てって楽しいよ!』が生まれました。
こうして、2つ目の夢が実現したのです!
岸さんは言います。
「夢は大切です。でも、夢中になっていると、もっと大切なものを忘れてしまう。夢を横に置いて、目の前の大切なものと向き合うことで夢が叶うこともあるんです」
岸さんは、自分の夢を横において、目の前の大切な人たち、夫、子どもたちのために、毎日、一生懸命に楽しくがんばりました。
そのご褒美に、彼女がまったく予期しない最高の形で、夢は叶えられたのだと私は思います。
目の前の人、目の前のことを大切にしながら、夢を追いかけよう。
「追いかけ続ける夢は、いつかきっと叶えられるものですよ」(モンゴメリー著『赤毛のアン』)